口腔内で産生された酸が齲蝕の原因になることはよく知られている。塩基は酸を中和し, 口腔内微生物に生息し易い環境を作り出す。したがって, 口腔内微生物の塩基産生と口腔疾患の関係を追究することは重要である。
本研究は, 唾液内微生物による各種前駆体からのプトレッシン産生に関するものである。全唾液を9名より採取し, 3名のものを同量ずつ混合した。これらの混合唾液を脱イオン水または25m Mの前駆体 (オルニチン, アルギニン, シトルリン, アグマチンおよびグルタミン酸) とともに, 37℃, 好気静置下で48時間インキュベートした。産生プトレッシンならびに残存アグマチンの定量は細管式等速電気泳動法によった。
オルニチン, アルギニンまたはシトルリンを含む唾液からプトレッシンが産生されたが, 脱イオン水, アグマチンまたはグルタミン酸を含む唾液を48時問インキュベートしても, 等速電気泳動法でプトレッシンは検出されなかった。オルニチンから最も多量のプトレッシンが産生された。アルギニンから産生されたプトレッシンの量は, オルニチンからのそれの1/2以下で, シトルリンから産生されたプトレッシンはアルギニンからのそれよりはるかに少なかった。また, 48時間のインキュベーションでは, 唾液内でアルギニンからアグマチンは産生されず, 添加アグマチンは分解されないことを確かめた。唾液内微生物によるアルギニンからのプトレッシン産生は, arginine dihydrolase経路を介したのち, オルニチンが脱炭酸されることによると考えられているが, 著者らの実験から, 唾液内微生物はarginine dihydrolase経路を通る以外に, arginaseおよびornithine decarboxylaseから成る経路で, アルギニンからプトレッシンを産生するものと思われた。
プトレッシン産生性アミノ酸を含む唾液のpHは, インキュベーションにより上昇したが, pHとプトレッシン墨は平行していなかった。アルギニンとともにインキュベートした唾液で, pH上昇が最も大きかったが, これはプトレッシンとともに産生された揮発性塩基 (アンモニア) によるものである。