抄録
口唇腺の微細構造の報告はヒト以外の動物には認められない。各種動物の口唇腺を比較研究する目的でトカゲの一種であるアノールトカゲについて調査した。走査型と透過型電顕による観察の結果, 次のような所見を得た。
1) アノールトカゲ口唇腺は分岐管状胞状腺からなり, 導管は口腔前庭に開口する。
2) 終末部を形成する腺細胞はおよそ立方状ないし円柱状で一層に配列する。腺房の基底部は筋上皮細胞にとり囲まれる。
3) 核は腺細胞の基底部に位置し, 核上部には粘液顆粒が充満する。このほか細胞質内には粗面小胞体, 遊離リボゾームが多数認められる。
4) 粘液顆粒は径が1~2μmで電子密度の低いものとやや高いものが認められる。電子密度の低い顆粒は不定形のものが多く, また隣接する顆粒は密着し, 限界膜は不明瞭である。これらの顆粒は開口分泌によって放出されると思われる。
5) 腺細胞の基底部には本来の筋上皮細胞に混在して, 腺細胞が有する粘液顆粒に類似した顆粒を含む筋上皮細胞が認められる。これらの所見は, アノールトカゲ口唇腺は粘液顆粒様の顆粒を含む筋上皮細胞が存在するなど, ヒト口唇腺に比べていくつかの相違がみられるが基本構造は類似していることを示す。