体重約4,130g(生殖せん指数10.7)のマボラ,Mugil cephalus,の各組織中の脂質,特に卵巣脂質に関し検討すると共に,血しょうと肝臓及び卵巣ホモジネートによるワックスエステル(WE)の合成と分解をみた。卵巣脂質含量は全湿重量の17.6%で,WEはその内約70%を占めていた。WEのほとんどは炭素鎖長30~34で,その脂肪酸部分は主に16:1及び18:1から,アルコール部分は16:0及び16:1から成り立っていた。
[1-14C]オイレン酸及び[1-14C]オレイルアルコールよりのWE合成又はオレイル[1-14C]オリエートの加水分解は共に卵巣ホモジネート(RH)中で最も活発であった。また,[1-14C]オレイン酸の還元活性もRH中で最大であった。RH中のWE合成酵素は主に,105,000×gの沈殿部分(ミクロソーム画分)及びその上清中に分布しており,ATP,CoA及びNADPHの添加により[1-14C]オレイン酸よりのWE合成は賦活された。RH及び肝臓ホモジネートと共に血しょうにおいても[1-14C]オレイン酸よりのWE合成は認められ,オレイルアルコール添加により活性はさらに高められた。
これらの結果から,マボラ卵巣中の脂肪酸よりのWE合成に直接的に関係する酵素はアシルCoA:アルコールアシルトランスフェラーゼ及び脂肪酸還元酵素であり,血しょう中のそれはレシチン:アルコールアシルトランスフェラーゼ様酵素であると考えられる。さらに,卵巣中に多量に存在するWEはふ(孵)化直後の卵の浮力獲得に関係しており独特な生化学的適応の結果であると推定した。