相変化エンタルピーのカルシウムイオン濃度依存性を説明するための理論的アプローチが, リン脂質表面へのカルシウムイオンの吸着により検討された。用いたリン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン (DP-PC), ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン (DPPE), ジパルミトイルホスファチジルグリセリン (DPPG) である。本研究で用いた理論はDLVO理論に基づくものであり, 膜表面へのカルシウムイオンの吸着に起因する静電気的相互作用を説明しようとするものである。
DPPCとDPPGの相挙動に及ぼすカルシウムイオンの効果は, ヘルムホルツ自由エネルギー変化で説明することができ, 実測したエンタルピー変化は上式の電気的寄与に依存することが分かった。さらに, その電気的寄与は結合定数Kと有効表面積a'に関係することが分かり, DPPG と DPPC の最適値を求めたところ, それぞれ K = 100 M-1, a'=60,000m2/g と K = 40M-1, a' = 750m2/g であった。しかし, DPPE の場合はエンタルピー変化がないため最適値は得られなかった。