2015 年 8 巻 1 号 p. 55-60
小売業では多くの人力荷役機器が使われている.しかし呼称が様々であるため事故の実態把握を阻害しているおそれがあるため,各種人力荷役機器の呼称に関する実態調査が必要と考えられる.本研究では自記式アンケートにより中小規模の小売業における人力荷役機器の使用実態および呼称等を調査し,694社から回答を得た.業態による違いはあるものの,およそ半数が2種以上の人力荷役機器を使っていた.中でも一般的には台車と呼ばれているハンドトラックは大半が使用しており,ロールボックスパレットが全体の4割,両そで形および棚形の片そで形ハンドトラック,ドーリーは3割程度であった.呼称が多数であったことはユーザーが使用している機種を的確に回答できないことを意味しており,労災のような事故データ上の呼称では各機種の弱点に起因した事故であるかの判断ができないことが分かる.今後は正式名称および一般的な呼称を周知し,具体的な対策につなげるための環境整備が必要であると考えられた.人力荷役機器を用いた作業での危険感や社内マニュアルの有無についても調査したが,全般的には危険に感じる度合いが低く,マニュアルの保有は全体の1割に満たなかった.積載状態によっては大きな危険を伴う作業であるため,今後はマニュアルの整備が課題になると示唆された