2010 年 45.3 巻 p. 601-606
水面により倒景と呼ばれる対称な景色が生まれる。倒景の代表的な景観として逆さ富士が挙げられる。また倒景を意図してつくられた建物として金閣寺やタージマハルがある。倒景は私たちの身近な景観でもある。湖などの大きな水面は必要なく、公園などにある小さい池、水溜りでも倒景は見ることができる。春には桜のピンク、夏には緑、秋には紅葉が水面に映りこむことで、私たちの視界は鮮やかに彩られる。このような倒景はいつでも見られるわけではない。風がやみ、水面の波が消えたときのみ、水面は鏡として作用し、水面に奥行きや広がりのある景観が生まれる。非日常性も倒景の魅力であろう。しかし、著者が調べた限り、倒景の見え方に関する解析研究は見当たらない。本研究の目的は、視対象、視点場、水面との位置関係に注目し、倒景の見えの大きさに対応する見込角や立体角という幾何学的概念を通して倒景の基本構造を数理的に解析することにある。なお、倒景の本質を追求するために、極力状況を単純化する。