わが国の犯罪は減少傾向にあるが,そうした減少はすべての場所で一様に生じているわけではない.ある地域全体が減少傾向にあったとしても,地区レベルでの時系列変化にはばらつきが存在するものと考えられる.本研究では,東京23区の住宅対象侵入窃盗を事例に,既存研究で明らかでなかった,地区レベルでの犯罪の時系列変化と地区の社会経済的,物理環境的な特徴との関連について,潜在成長曲線モデルを用いて検討した.その結果,地区の犯罪の時系列変化を規定する潜在成長曲線は一次関数で表現されること,潜在成長曲線は地区ごとにばらついていること,社会解体論,日常活動理論,防犯環境設計論から想定される各地区の社会経済的,物理環境的な特徴が,潜在成長曲線の軌跡形状に関連していることを示した.結果をもとに,地区レベルでの犯罪のコンテクストを読み込んだうえでの対応の必要性をを示し,特に,アクセスが容易な低層密集住宅地,新興住宅地,日中に人の目が少ない地区において,今後地区レベルでの介入が求められることを述べた.