2015 年 50 巻 3 号 p. 1039-1044
近年は我が国の住宅政策の重点は住宅戸数の確保から、住宅規模や住環境などその質の向上に重点が置かれており、住宅セーフティネットの確保も重要な目標であるとされている。公営住宅は住宅セーフティネットの重要な柱であり、居住者のみならず社会全体に「セーフティネットが存在する」という安心感を与えると期待される。しかしながら、公営住宅のこのような地域波及効果についてはほとんど評価されていない。
本研究では、公営住宅が地域に及ぼすセーフティネット効果についての基礎的知見を得るため、全国を対象としたWEB調査と公営住宅近隣住民を対象としたポスティングによるアンケート調査の2種の調査を実施した。得られたデータを分析し、個人属性や地域間の「安心感」の差を検討した。この結果、60%強の住民が困難に直面した際に公営住宅の利用を検討すること、その意図には地域間の差はほとんどなく、若い人ほど積極的であること、世帯年収が1000万円程度までの住民に意図の差がないことなど、公営住宅のセーフティネット効果を検討するうえで基礎となる重要な知見を示した。