2021 年 56 巻 1 号 p. 98-104
本稿は、浅野セメント深川工場の問題への対応の分析を通して、近代日本における用途地域制の導入過程を明らかにするものである。用途地域制そのものに焦点を当てた既存研究は、当時の社会状況にしか触れておらず、なぜ用途地域制が当時の社会に受け入れられたのかについて十分に説明することができていなかった。そこで本稿では、社会史の視点を導入することによって、深川工場の煤煙問題が「都市化」によって引き起こされたものであるという認識が、都市計画家だけでなく新聞紙上においても用途地域制が必要であるという認識をもたらしたことを明らかにする。そして、そのような用途地域制が東京の東西の土地の性格を制度的に決定づけたことを示す。