抄録
交通現象を理解するためには, 個々人の行動の理解, さらには, 行動の背後にある心理的傾向の理解が必要となる局面がしばしばあるものと考えられる. それらを考慮した場合, 離散選択モデルは必ずしも適切な行動モデルではない. その一方で, 行動をより深く理解することで, 政策論的に意味のある議論を展開できる可能性も存在するだろう. その様な詳細な心理的傾向を詳細に考慮した上でマクロな現象を記述する場合, シミュレーションが一つの有効な手法であろう. ただし, シミュレーションを定量的な需要予測に適用する場合には, その結果の精度の限界を踏まえた上で結果を解釈するための社会的コンセンサスが不可欠である. 一方, 一般的な定性的現象理解に適用する場合には, その基本となる行動仮説が理論的にも実証的にも妥当なものであること, ならびに, その結果に基づいた適切な政策議論が必要であることが不可欠である.