日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
原著
3歳児乳歯う蝕と母親の育児不安
岩田 幸子大橋 たみえ石津 恵津子廣瀬 晃子磯崎 篤則可児 徳子
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 50 巻 12 号 p. 1144-1152

詳細
抄録

目的 う蝕の発生は生活習慣に深く関わっており,子どもの生活習慣は母親の育児態度の影響を大きく受けている。育児不安を抱え,精神的に不健康な母親がブラッシング指導や生活習慣指導を受け入れ実行するのは困難であると考えられ,幼児のう蝕発生予防には,母親の精神健康状態を考慮した指導が必要と思われる。そこで本研究では 3 歳児のう蝕の発生に母親の育児不安がどのように関係しているかについて検討を行った。
方法 対象は 3 歳児健康診査受診のため,岐阜市内某保健センターを訪れた 3 歳児とその母親(503組)である。3 歳児に対して,歯科健診およびう蝕活動性試験(カリオスタット®)を実施し,母親に対して,育児に関する質問票調査を実施した。う蝕とカリオスタット値との関係については二項ロジスティック回帰分析により検討を行った。育児不安とう蝕およびカリオスタット値との因果関係については,間食摂取行動,ソーシャルサポート,食に関わる子ども特性の構成概念を加えてモデルを作成し共分散構造分析を行った。
成績 1. カリオスタット値が大きくなるに従い,う蝕有病者率は高くなり,2.0以上で統計的有意性を認め,う蝕の現症との関連性が確認された。
 2. 共分散構造分析では,う蝕およびカリオスタット値のどちらのモデルにおいても適合度が,GFI=0.95 以上,RMSEA が0.05以下を示し,比較的適合度のよいモデルが得られた。構成概念間で統計的有意な直接効果が確認されたのは,育児不安から間食摂取行動に対して,ソーシャルサポートならびに子ども特性から育児不安に対してであった。間食摂取行動はカリオスタット値に対し有意となったが,う蝕に対しては認められなかった。
結論 子どもの間食摂取行動が不良な場合,間食摂取を制限する指導のみでは改善に導くことは難しく,背景にある母親の育児不安に配慮した指導が必要であることが示唆された。また問診から,子どもの食行動やソーシャルサポートについて尋ねることは,間食摂取行動に影響を及ぼしている育児不安を察知するのに役立ち,その対処方法として,ソーシャルサポートの提供が有効であることが示唆された。またカリオスタットはう蝕発生に関わる育児環境を反映した結果を得るのに有効な検査であることが確認された。

著者関連情報
© 2003 日本公衆衛生学会
前の記事 次の記事
feedback
Top