日本公衆衛生雑誌
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健康危機に対応した保健所等の事務権限についての研究
神尾 友佳藤本 眞一山本 覚子小窪 和博稲葉 静代藤原 奈緒子
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2004 年 51 巻 6 号 p. 432-444

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抄録

目的 保健所の重要な任務として地域保健法の基本指針で明確に規定されている健康危機管理について,より良い権限付与のあり方を考察していくことを目的とした。
方法 全国の保健所設置主体に対して,健康危機に関して定められている法律として,2 年前の先行研究により抽出された229の条項文について,各県市区の首長が保健所などの出先機関の長に条項の権限を「事務委任」,また,その権限を首長のまま,判断のみを出先機関の長などに任せる「専決」させているかを,調査した。それらの結果をもとに,各県市区における健康危機管理対応の権限のあり方を検討した。
成績 大麻取締法,覚せい剤取締法などの条項については,「権限を首長のまま」が県市区の 6 割以上であった。一方,食品衛生法,医療法,感染症法などの条項については,「保健所長・統合組織の長委任」が県市区の 6 割以上であった。また,統合組織の長へ委任し直している県市区が,先行研究(群馬県のみ)よりも,8 市区(青森県,群馬県,神奈川県,富山県,兵庫県,福岡県,横浜市及び横須賀市)と,増えてきた。環境保全関係の権限などは,約 1 割の県市区が統合組織の長に委任し直しているが,食品衛生法などの保健所長にもともと委任されていた権限は,9 割以上は保健所長に委任されたままである。また,大麻取締法の「免許の取消し」など,多くの県市区が「権限を首長のまま」にしている条項については,約 9 割が出先機関へ専決されておらず,保健所長等に専決されているものは僅かに 1 割以下であった。
結論 交通遮断のように,社会生活全般に影響を及ぼす特に重大な権限と考えられる権限でも,「出先機関への委任」を行っている県市区もあり,権限内容の重さを認識しているとは言い難い。そのような重要な権限は県市区の最終責任者たる首長が総合的に判断を下すべきである。一方,柔軟に対応するためにも,現場で処理した方が実際に迅速機敏に対処できる権限については,出先機関で対応すべきである。また,統合組織を作ったならば,出先機関に委任し直すべき権限は,統合組織の長へ委任し直すべきである。「出先機関での専決」は「出先機関への委任」と事実上の責任は変わらない。また,その意味が曖昧なため,とくに重大な権限でなければ,「出先機関での専決」を「委任」に改めるべきである。

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© 2004 日本公衆衛生学会
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