日本公衆衛生雑誌
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原著
日本における難病による死亡の時系列推移(1972~2004年)
土井 由利子横山 徹爾酒井 美良
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2007 年 54 巻 10 号 p. 684-694

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抄録

目的 国は,1972年に,原因不明で治療方法が未確立であり,経過が慢性で後遺症を残すおそれが少なくなく,身体的のみならず精神的,経済的にも負担の大きい疾病を難病と指定し対策を進めてきた。本研究の目的は日本における難病による死亡の時系列推移(1972-2004年)について検討することである。
方法 難病に指定されている特定疾患治療研究対象疾患45疾患のうち,年間死亡数が100を超す再生不良性貧血,パーキンソン病,全身性エリテマトーデス,潰瘍性大腸炎,特発性血小板減少性紫斑病,結節性動脈周囲炎,アミロイドーシスを対象疾患とし,人口動態調査死亡票をもとに,粗死亡率と年齢調整死亡率(直接法)を算出し,ジョインポイント回帰モデルを用い時系列推移について分析した。
結果 最新(2004年)の各疾患の粗死亡率(人口100万対)は,男女それぞれ,パーキンソン病で25.55,25.93,再生不良性貧血で5.41,6.92,全身性エリテマトーデスで0.87,3.50,アミロイドーシスで2.93,2.36,結節性動脈周囲炎で1.40,1.54,特発性血小板減少性紫斑病で1.34,1.61,潰瘍性大腸炎で1.02,0.74,であった。年齢調整死亡率の年変化率を全期間でみると,潰瘍性大腸炎(男−5.2%,女−7.5%),再生不良性貧血(男−3.6%,女−3.7%),特発性血小板減少性紫斑病(男−2.1%,女−3.0%)と全身性エリテマトーデス(男−0.9%,女−2.6%)で減少,アミロイドーシス(男+3.3%,女+3.5%),結節性動脈周囲炎(男+3.2%,女+4.0%),パーキンソン病(男+0.7%)で増加していた。最新の時系列相に注目すると,アミロイドーシス(男)では有意に増加していたが,結節性動脈周囲炎(女)とパーキンソン病(女)では有意に減少していた。一方,潰瘍性大腸炎(男)は減少傾向が止まった状態が続いている。
結論 対象とした難病の多くは,この約30年間で,年齢調整死亡率が有意に減少した。難病に効果的な一次予防の手立てがないことから,死亡率の改善は,診断治療の進歩による可能性が大きいと考えられる。しかしながら,根治療法の開発や病因の解明など未解決の部分も多く,患者支援とともに,さらなる研究が必要である。

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© 2007 日本公衆衛生学会
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