日本公衆衛生雑誌
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単科精神科病院における患者と職員の喫煙状況 neglected problem とされてきた精神科の喫煙問題に取り組むために
川合 厚子阿部 ひろみ
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2007 年 54 巻 9 号 p. 626-632

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抄録

背景 これまで精神科における喫煙の問題は日本においてだけではなく世界的に“neglected problem(無視されてきた問題)”であった。精神障害者は喫煙率が高く,多喫傾向にあり,禁煙しにくいといわれている。また,精神科医療職も喫煙率が高いことが指摘されている。
目的 精神障害者の喫煙状態を把握し,禁煙支援の需要があるかを知る。また,精神科医療従事者の喫煙状態を把握し,喫煙に対する意識を知ると共に喫煙問題への意識を高め,職場環境の改善へつなげる。
方法 2001年12月~2002年 5 月に単科精神科病院である医療法人社団公徳会佐藤病院に通院又は入院していた統合失調症・気分障害・アルコール依存症のいずれかを持つ患者296人と同院職員222人に,それぞれ喫煙実態調査を行った。
結果 対象患者における喫煙率は,統合失調症では男77.4%,女39.3%,双極性気分障害では男87.5%,女100%,うつ病では男は69.6%,女5.4%,アルコール依存症では男86.7%,女100%であった。喫煙者のうち78.1%がニコチン依存症であった。また,喫煙者の75.7%は禁煙に興味を持ち,49.0%は禁煙を希望しており,精神科においても禁煙支援の需要の高いことがわかった。職員においては,喫煙率は45.5%(男76.6%,女29.0%)と高く,とくに若い年代で喫煙率が高かった。喫煙開始年齢は18歳と20歳にピークがあった。1 日20本以下の喫煙者が80%を占め,40本以上の喫煙者はいなかった。喫煙者の91.1%は自分の吸うタバコがまわりに迷惑をかけていると認識していた。しかし職場内全面禁煙となった際,対処が難しいと答えたものは66.3%,近々やめたいという禁煙希望者は24%にすぎなかった。一方,非喫煙者のうち職場のタバコで悩まされている者は29.8%,タバコの煙を嫌だと思う者は76.0%であった。喫煙しないで欲しい場合喫煙者にそれを言える者は,相手によると答えた15.7%を含め,22.7%であった。喫煙対策を是とするものは職員全体の80.0%であった。医療従事者として,喫煙問題に対する意識が不十分であることが窺われた。
結論 精神障害者の喫煙率とニコチン依存症の割合は高かったが,禁煙希望者も半数近くあり,禁煙支援の需要の高いことがわかった。精神科医療従事者は喫煙率が高く,喫煙問題に対する認識が低かった。

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