日本公衆衛生雑誌
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原著
統計的メタボリックシンドローム・シミュレータの開発
圖師 誠山岡 和枝渡辺 満利子丹後 俊郎
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2010 年 57 巻 12 号 p. 1043-1053

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抄録

目的 メタボリックシンドロームは肥満,高血糖,高血圧,脂質異常などの代謝異常が複合した病態であり,動脈硬化性疾患のリスクを高める複合型リスク症候群としてその診断基準がいくつか公表されているが,国際的にも統一した基準として定まっていない。そこで,診断基準の相違や診断基準の要素の値が変化することによる,メタボリックシンドローム有病率の変化などその診断基準と有病率との関連を調査し,健康施策などに役立てるためのツールとして,メタボリックシンドローム・シミュレータを開発することを目的とした。
方法 ①シミュレータ構築のための収集データ:実際の健康診断データ(「健診データベース」)を用いて,各診断基準の要素(腹囲,BMI,中性脂肪,HDLコレステロール,血圧,空腹時血糖,HbA1c)の特性を調査し,変数変換を検討した。次に,変換後の値を用いて分散共分散行列を算出した。
 ②シミュレータの構築:ユーザが入力する平均値と上記で算出した分散共分散行列を用いて,多変量正規乱数を発生した。次に,発生したデータに逆変換等の処置を行った上で,メタボリックシンドロームの 5 つの診断基準(NCEP–ATPIII, AHA/NHLBI, IDF,検討委員会,厚生労働省)の有病判定を行いメタボリックシンドロームの有病率を求めた。その過程を繰り返し,有病率の平均および分散を算出した。
結果 都内人間ドックでの健康診断データを「健診データベース」として用いメタボリックシンドローム・シミュレータを構築し,その性能評価と感度分析を行った。次に,適用事例として,日本および欧米での文献(診断基準の一部が記載されていない)を取り上げ,本シミュレータで欠損項目の平均値を推定し有病率を推定した。さらに診断基準の要素の値を変化させたときの有病率の変化を検討した。以上の結果から,とくに検討委員会および IDF の基準が類似しているなど,診断基準の特徴の一端を明らかにすることができた。
結論 メタボリックシンドロームの 5 つの診断基準について,シミュレータを開発し,シミュレート用データの発生から,メタボリックシンドローム有病率の推定が可能となった。診断基準の要素の一部を変化させたときの有病率のシミュレート結果は,健康施策などにも利用可能と考えた。

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© 2010 日本公衆衛生学会
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