日本公衆衛生雑誌
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研究ノート
救急搬送における高齢者の転倒の標準化発生比と社会経済状態の関連
吉本 好延三木 章江浜岡 克伺大山 幸綱河野 淑子佐藤 厚
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2011 年 58 巻 3 号 p. 183-189

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抄録
目的 本研究の目的は,わが国の既存統計では把握することができない救急搬送を伴った高齢者の転倒と社会経済状態の関連性を明らかにすることであった。
方法 解析対象は55消防本部であり,転倒搬送件数は,平成19年の 1 年間に救急搬送された一般負傷に含まれる,死亡または入院加療を必要とした高齢者の転倒13,855件(男性4,225件,女性9,630件)であった。研究デザインは,生態学的研究であった。転倒の標準化発生比は,各消防本部が単年度に搬送した実際の転倒数と,最も人口の多い消防本部を標準集団とした期待転倒数により算出した。転倒の標準化発生比に関連する社会経済的指標は,各消防本部の都市的地域の有無,老年人口の割合,人口密度,舗装道路の割合,高齢夫婦世帯数,高齢単身世帯数,第一次産業•第二次産業•第三次産業就業者数,雇用者の割合,役員数の割合,世帯密度,課税対象所得,完全失業者の割合,医師数,病院数の計16項目とし,ステップワイズ重回帰分析にて解析を行った。
結果 男性の転倒の標準化発生比に関連した要因は,高齢単身世帯数,高齢夫婦世帯数,役員数の割合であり,標準偏回帰係数はそれぞれ,0.810, −0.440, −0.321を認め,これら 3 要因による自由度調整済み決定係数は0.394であった。女性の転倒の標準化発生比に関連した要因は,高齢単身世帯数,第二次産業就業者数,完全失業者の割合,都市的地域の有無,役員数の割合であり,標準偏回帰係数はそれぞれ,0.907, 0.529, −0.415, 0.411, −0.252を認め,これら 5 要因による自由度調整済み決定係数は0.454であった。
結論 救急搬送を伴った高齢者の転倒は,地域の世帯状況や就労状況,就労上の地位などが関連した。転倒予防対策は,高齢者を取り巻く人的•物的環境を整備し,社会的ネットワークを形成することや,就労上の地位に対応した生活習慣の指導などが必要であると推察された。
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© 2011 日本公衆衛生学会
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