日本公衆衛生雑誌
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研究ノート
慢性期外傷性頸髄損傷者におけるセルフマネジメントの確立の過程に関する質的分析
大河内 彩子田高 悦子
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2015 年 62 巻 4 号 p. 190-197

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抄録

目的 慢性期の外傷性頸髄損傷者はセルフマネジメントを必要とするが,セルフネグレクトが報告されている。本研究は彼らが受傷後セルフマネジメントを確立してきた過程を明らかにすることで,地域ケアのあり方についての示唆を得る。
方法 研究デザインはグラウンデッドセオリーによる質的研究である。全国的な当事者団体の 3 支部と 1 訪問看護ステーションの各々から紹介された,外傷性頸髄損傷者29人(26–77歳)を対象者とし,対象者自宅で半構造化面接を実施した。セルフマネジメントに関する認識や実践について,無認識期・模索期・適応期に分類した時間軸の観点から分析を行った。
結果 セルフマネジメントの確立過程の中核カテゴリは【生活上の混乱の程度を最小にして在宅生活を維持するための絶え間ない調整】であり,以下の 7 カテゴリが得られた。無認識期には《健康管理の必要性を認識できない》と感じられ,管理が必要な身体であることを自覚しづらく,介助者に健康管理を任せていた。模索期には《わけがわからないまま変化への対応に追われる》と表明され,我流の対処をしたり,受診の必要性を認識しないこともあった。また,《なんとか健康でいるための方法を模索する》と語られ,自己責任の自覚や最良の方法の探求や助言の活用がなされる一方で,服薬の自己中断等の経験から身体の限界レベルを学ぶこともあった。適応期には《一旦構築した健康管理方法を継続する工夫をする》,《ストレス管理をする》,《自分の信念を医療の約束事よりも優先させる》,《変化を恐れず健康管理方法を修正する》ことが行われ,セルフモニタリングや二次障害の予防行動やストレス管理が取られていたが,服薬を自己判断で避けたり,ライフスタイルを優先する健康管理方法を用いたりすることもあった。
結論 対象者は試行錯誤を経て維持可能なセルフマネジメント方法を習得している一方で,すべての時期において,健康管理の意義や受診の必要性を意識できなかったり,我流の対処が取られていることが明らかになった。今後はセルフネグレクトを行う患者の視点を生かしたセルフマネジメントプログラムの開発,患者が社会参加とセルフマネジメントのバランスを取りやすい健康管理方法の教育,在宅療養生活を支える専門職間の連携ネットワークの構築が必要と考えられた。

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© 2015 日本公衆衛生学会
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