日本公衆衛生雑誌
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研究ノート
疫学研究レビューからみた震災発生からの経過時間と疾患発生との関連
月野木 ルミ村上 義孝早川 岳人橋本 修二
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2016 年 63 巻 1 号 p. 17-25

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抄録

目的 震災による疾患発生・死亡への影響を検討した疫学研究(保健医療統計調査を含む)を対象に系統的な文献レビューを行い,疾患別に震災からの経過時間とその影響の関連を検討した。
方法 文献検索には MEDLINE を用い,発行年が1990年 1 月 1 日から2012年10月30日,政府統計もしくは500人程度以上の集団,を検索条件として実行した。文献レビューでは重複文献,少数例の調査,動物実験,実験的研究など不適切な文献を除外した。最終的に抽出した文献から,震災からの経過時間と震災前後の疾患発生・死亡の増減に焦点をあてチャート図にまとめた。なお経過時間については災害サイクルに基づき,発生~3 日,4 日~3 週間,1 か月~5 か月,6 か月から 1 年未満,1 年,2 年以降とした。疾患分類は精神障害,自殺,感染症,外傷,循環器疾患とした。
結果 文献検討の結果54件が抽出された。精神障害では,震災直後からのうつ症状の有訴率,心的外傷後ストレス障害などの精神的ストレス評価指標は高い得点を示す割合が高く,震災後 6 か月以降緩やかに減少傾向を示したものの,震災 3 年後でも依然高い得点を維持する傾向がみられた。自殺では震災後 1,2 年間は減少傾向を示し,その特性は中高年男性のみ減少傾向,男性で減少傾向を示す一方で,女性では増加傾向を示すなど,性・年齢・被災地域での違いで認められた。感染症では震災の影響は震災直後から数か月間と限定的であり,理由として衛生状態の悪化などが示されていた。外傷では震災発生時から 2,3 日間死亡および入院が激増し,それ以降は激減した。循環器疾患では,急性心筋梗塞は発症・死亡数のピークが震災後24時間~数日で夜間発症例が多く,3~6 か月間から最長 1 年間は継続し,震災規模や被災状況により増加する期間に違いが認められた。脳卒中は急性心筋梗塞と同様のパターンを示し70~80歳での発症・死亡が多かった。その他,突然死,たこつぼ型心筋症の報告があり,震災直後から 1 週間~1 か月程度は平時に比べ増加する傾向にあった。
結論 疾患により震災発生からの経過時間と疾患発生のパターンに大きな違いがあり,震災直後の疾病の増加抑制のためには,疾患に応じた介入タイミングがあることが示された。

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