日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
原著
沿岸部に在住する中学生の津波のリスクに対する認識と避難意思との関連
礒野 晃照佐伯 和子本田 光
著者情報
ジャーナル フリー

2019 年 66 巻 7 号 p. 348-355

詳細
抄録

目的 東日本大震災では生徒の避難行動が課題となった。そこで本研究では,中学生の津波のリスクに対する認識と避難意思との関連を明らかにする。

方法 A県太平洋沿岸部にあるB町の中学校全4校の生徒,1~3年生の全251人を対象とした。B町教育委員会の承諾を得て無記名自記式調査票を用いた。中学生は未成年であるため,本人と保護者の同意が得られたものを分析対象者とした。調査内容は個人属性,避難意思,津波のリスクに対する認識(心理的リスク認知,津波の経験,地理的要因の認識,家庭内でのリスク対応)である。津波のリスクに対する認識と避難意思との関連についての分析はピアソンのχ2検定およびフィッシャーの正確検定を用いた。本研究は,北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を得た。

結果 調査票は有効回答158人(有効回答率62.9%)であった。沿岸部の学校は141人(89.2%),男子81人(51.3%),女子77人(48.7%)であった。中学生の避難意思について,避難すると答えたのは「自治体から避難指示を聞いた時」147人(93.0%),「長い揺れを感じた時」112人(70.9%)であった。自宅の海抜が15 m以下であると認識している者は66人(41.8%)であった。家庭内で家族と津波のリスク対応について話し合っている者は125人(79.1%)であった。津波のリスクに対する認識と避難意思との関連について,「避難指示を聞いた時」において避難すると答えた割合は,自宅の海抜が15 m以下と認識している者が16 m以上と認識している者よりも多かった(100% vs 82.4%,P<0.001)。また,「長い揺れを感じた時」において避難すると答えた割合は,自宅の海抜が15 m以下と認識している者が16 m以上と認識している者よりも多かった(84.8% vs 35.3%,P<0.001)。家庭内で話し合っている者が話し合っていない者よりも多かった(76.8% vs 48.5%,P=0.001)。

結論 中学生は,自宅の海抜によって津波のリスクをより現実味を持って捉えており,避難意思を持つためには,地理的要因を認識することの重要性が示唆された。また家庭内において津波について話し合うことで,中学生の避難意思は高められることが示唆された。

著者関連情報
© 2019 日本公衆衛生学会
前の記事 次の記事
feedback
Top