日本公衆衛生雑誌
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原子力災害下における福島県住民の心的外傷後成長の実態:自由記述の検討
岩佐 一中山 千尋森山 信彰大類 真嗣安村 誠司
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2022 年 69 巻 2 号 p. 158-168

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抄録

目的 「心的外傷後成長(posttraumatic growth)」(以下,PTG)は,「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがきや奮闘の結果生じるポジティブな心理的変容」であり,心的外傷の体験者に対する心理的支援に活用されている。本研究は,東日本大震災を経験した福島県住民におけるPTGの自由記述を分類し,その傾向を調べること,基本属性とPTG自由記述の関連,「放射線健康影響不安からの回復」とPTG自由記述の関連について検討することを目的とした。

方法 2016年8月に,20~79歳の福島県住民2,000人に自記式郵送調査を行った。PTGの有無について質問した後,PTGの自由記述を求めた。基本属性として,年齢,性別,教育歴の回答を求めた。震災直後と調査時点における,放射線健康影響に対する不安を問い,対象者を「不安なし」群,「不安から回復」群,「不安継続」群に分割した。Posttraumatic Growth Inventory(Tedeschi & Calhoun, 1996)における5つの領域(「他者との関係」「新たな可能性」「人間としての強さ」「精神性的変容」「人生への感謝」)に基づき,さらに西野ら(2013)を参考として,「防災意識の高揚」「原子力問題への再認識」「権威からの情報に対する批判的吟味」を加えた8つのカテゴリにPTG自由記述を分類した。

結果 916人から回答を得て,欠損の無い786人を分析対象とした。女性と64歳以下の者では,「他者との関係」「人生への感謝」を回答した者が多かった。教育歴が高い者では,「他者との関係」「原子力問題への再認識」「権威からの情報に対する批判的吟味」「人間としての強さ」「精神性的変容」「人生への感謝」を回答した者が多かった。「不安から回復」群において,「原子力問題への再認識」を回答した者が多かった。

結論 女性や若年者では,家族・友人関係,地域との結びつきを実感する等の報告や,日常生活に対する感謝の念が生じる等の報告がなされやすかった。教育歴が高い者では,国や電力会社,全国紙等が発する情報を鵜呑みにせず批判的に吟味するようになった等の報告や,震災後自身の精神的な強さや成長を認識できた等の報告がなされやすかった。放射線健康影響不安から回復した者では,原発やエネルギー問題に対して新たな認識が生じた等の報告がなされやすかった。

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