石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
木材の直接液化におよぼす2-プロパノールの添加効果
小木 知子横山 伸也小口 勝也美濃輪 智朗
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1989 年 32 巻 1 号 p. 21-27

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抄録

著者らは以前に, 木粉を水素や一酸化炭素などの還元性ガスなしに, 触媒存在下, 高温, 高圧下で反応させ, アセトン可溶の重油状の液化物を得たことを報告した (文献15~18)。この生成物の性状は, 温度, 圧力などの反応条件に大きく依存するが, いずれの場合も生成物として得られるのは半固体状の物質で, 分離•抽出操作にいくつかの問題点をかかえている。そこで反応系に有機溶媒を添加して液化を行ったところ, プロパノール, ブタノール, 酢酸エチル, アセトンなどを添加溶媒として用いた場合, 流動性にとむ液化油が得られることがわかった (文献19)。今回, この実験の中で良い結果を示した2-プロパノールについて系統だてて実験を行い, その効果を調べた。
原料としてはコナラ木粉を用いた。その組成•元素分析値をTable 1に示す。触媒には炭酸ナトリウムを5wt% (対木粉重量%) で用いた。ジクロルメタン可溶分として定義した液化油の収率は次の式より求めた。
収率(%)=(生成油の重量/原料木粉の重量)×100
水: 2-プロパノール=1:1の条件下での液化の結果をTable 2に示す。いずれの場合も水だけを反応溶媒として液化を行った場合にくらべ収率は向上し, 流動性に富む油が得られた。炭酸ナトリウムの有無は, 油の収率には大きな影響を与えないが, その性状に影響をおよぼす。すなわち, 触媒存在下で得られた油は, 触媒の存在しない条件下で得られた油にくらべ, 炭素含有率が高く, 酸素含有率が低く, 従って発熱量が大きい。また平均分子量も小さく, 流動性に富む。Table 2中, *で示した2-PrOH ("Final"/"Initial") は反応に用いた2-プロパノールに対する反応終了後の反応混合溶液中に存在する2-プロパノールの存在量比で, 2-プロパノール回収の目安となるものである。2-プロパノールの反応後/反応前存在比は約0.8~1.0で温度があがるにつれ, この値は小さくなり, 回収率は低くなる。
水: 2-プロパノール=1:1の条件下では流動性に富む油が収率よく得られたが, 反応溶液は均一な水溶液で, 油を得るには抽出操作が必要となる。そこでよりよい油水分離の条件を求め, 水: 2-プロパノールの比率をかえて液化を行った。その結果を Table 3に示す。水: 2-プロパノール=25:5の時, 反応直後に得られる一次生成油は水溶液の上にうき, デカンテーションによる分離がほぼ可能であった。他の20:10, 28:2の時も, 一次生成油は一部分離した。しかしながら, この25:5の条件下での2-プロパノールの回収率は低かった。
2-プロパノールの回収は, この液化反応の効率を考えるうえからも非常に興味ある問題である。2-プロパノールは脱水•脱水素反応により, それぞれプロピレン, アセトンに転化することはよく知られている。そこで反応前後の2-プロパノール, プロピレン, アセトンの量を測定し, 2-プロパノールのマスバランスについて考察した。その結果を Table 4に示す。温度の上昇とともにイソプロパノールの回収率は減少し, 逆にアセトンが増加するが, その量はプロピレンにくらべるとはるかに少ない。Table 4から, 2-プロパノール存在下での液化反応が, 2-プロパノールを水素供与体とする水素化反応でないことが示唆された。
以上, 木粉を水, 2-プロパノール, 炭酸ナトリウム存在下, 窒素ガス中, 250~300°C, 100気圧前後で直接液化させ, 流動性に富む液化油を得た。2-プロパノールを水に対し10-20vol%添加すると, 油水分離性の良い油が得られた。水: 2-プロパノール=1:1の条件下では, 275°Cで反応させると60%をこえる収率で流動性の非常に良い油が得られ, その場合の2-プロパノールの回収率は約9割であった。

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