環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 市民調査の可能性と課題
参加者の楽しみを優先する市民調査――矢作川森の健康診断の実践から見えてきたもの――
蔵治 光一郎
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2007 年 13 巻 p. 20-32

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抄録

愛知・岐阜・長野にまたがる矢作川流域の森林において市民が主体となって行っている「矢作川森の健康診断」活動を事例として,市民調査の新しいあり方について考察した.矢作川森の健康診断には,これまでの市民調査にはあまりみられない「効率を追わない」「市民と専門家が対等な立場で関わる」「科学的精度よりも参加者の楽しみを重視」「参加費を取って運営する」の4つの特徴があり,このような活動に参画できる専門家の条件として「専門分野のずれ」「分野外への踏み出し」「社会提言」が必要であった.矢作川森の健康診断には「既存林業関係組織」「専門家」からの批判や「無断立入り」への批判があるが,参加者の楽しみを追求することにより,これまで関心の薄かった流域圏市民を人工林の現場に誘う機会を提供するという点での意義は大きいと考えられた.矢作川森の健康診断は不健康人工林の治療には直接関与しないが,行政や森林組合などと連携することにより間接的にその治療に寄与しており,希望者には直接関与へ向けての多様な選択肢が用意されていた。

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© 2007 環境社会学会
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