環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
論文
資源の共同利用に関する正当性概念がもたらす「豊かさ」の検討――ソロモン諸島ビチェ村における資源利用の動態から――
田中 求
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2007 年 13 巻 p. 125-142

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抄録

本稿の目的は,ソロモン諸島ビチェ村を事例に,「自然資源を共同利用するうえで正当とみなされてきた概念」すなわち「正当性概念」を把握し,「豊かさ」の獲得における正当性概念の内包する問題点を明らかにすることである。

ビチェ村における正当性概念は,収穫物を他者に贈与する「気前の良さ」,また資源の共同利用を認め,他者への非難を禁忌とする「寛容さ」,自己の利益のみを追求しない「相互扶助」の重視,資源を共同利用するための「働きかけ」の重視,という4要素から形成されている。

1915年以降,キリスト教布教団による境界設定や旅客船の来島,商業伐採などの影響により,ビチェ村の正当性概念は,「気前の良さ」ではなく利用集団の限定化という「利己的」な方向に,「寛容さ」ではなく有償利用化という「厳格さ」に,「相互扶助」ではなく「雇用労働」の重視に,「働きかけ」ではなく「境界」の強調という方向に揺らぐこととなった。ビチェ村の人々は,この揺らぎを修復しつつ,住民間の不和を解消し,さらには気前の良い漁獲物分配と相互扶助を活発化させながら現金収入を得ていく「豊かさ」を求めていた。しかしながら,「寛容さ」は盗漁や利益の着服を厳しく非難できないという負の側面を持ち,また「気前の良さ」は収入増加を妨げた。さらに「働きかけ」の重視は,「働きかけ」なかった者に対する利益や収穫物の提供という「相互扶助」を阻害した。正当性概念は,その強調が「豊かさ」に結びつくと同時に,負の側面をも内包するという困難さを持っているのである。

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© 2007 環境社会学会
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