環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 「災害」――環境社会学の新しい視角
災害研究のアクチュアリティ――災害の脆弱性/復元=回復力パラダイムを軸として――
浦野 正樹
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2010 年 16 巻 p. 6-18

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抄録

本稿では,人文社会科学の立場から災害研究に関してこれまでどのような問題関心のもとに研究がなされ視野が広げられてきたかをレビューし,現在の段階でどのような研究の視点を重視しようとしているかを紹介しようとする。ここでは,中心的な概念として副題にもあるとおり,「災害の脆弱性」概念をとりあげ,その歴史的な蓄積過程や変動過程に注目するとともに,社会構造や政治経済的な支配構造などとの影響関係を概念枠組に取り込む試みを紹介した。そのうえで,脆弱性の概念では捉えきれない部分を補充・補完する意味で,「復元=回復力」概念を提示しその意義を論じている。

社会構造と社会的脆弱性との関係に着目する上記の分析枠組は,環境社会学でこれまでとりあげてきた被害構造や環境正義などの問題とも結びつくと同時に,日常的な生活の営みや環境の変化を辿ろうとする点で生活環境主義などとも関心を共有する側面がある。とくに,「復元=回復力」概念は,災害と共存してきた地域の歴史や文化を掘り起こし,生活再建に向けた人びとの活動に注目することで,災害に強い社会を構想しようとする社会的営為にフォーカスを当てようとしている点で,生活環境主義やまちづくり活動へのアプローチと多くの共通点を有する。このような災害と環境の複合的な問題系は,自然と社会の関係の変化についての新しい洞察を含む,包括的でダイナミックな理論構築を要請しているといえよう。

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© 2010 環境社会学会
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