近年,自然環境の破壊が危惧されるような乱開発問題の現場で,入会権が地域社会の自然環境を守る手段として機能する,「環境保全機能」が注目を集めている。その一方で,近年の社会経済的な変化に伴い,かつてのような収益行為が行われていない入会は多く存在する。本稿では,入会地が積極的に利用されなくなるという状況が,(1)住民の権利にどのような影響を及ぼすか,(2)権利行使の様態は,どのような利用形態となり,(3)それは環境保全という観点からどのように機能するのか,という点を検討した。
その結果,(1)入会権の利用目的は入会集団が自ら決定することができ,(2)その利用形態は多様かつ動態的であり,(3)その内容は,直接的な収益行為に限定されないため,非直接的な便益に基づく「保存型利用」のような利用形態も,入会権の権利内容として妥当することが確認できた。したがって,今日の社会経済的変化への1つの対応である「保存型利用」は,乱開発の抑止や生態保全に寄与する環境保全的機能を有しているものと考えられる。