環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 循環型社会の形成と環境社会学
廃棄物処理施設の立地をめぐる「必要」と「迷惑」――「公募型」合意形成にみる連帯の隘路――
土屋 雄一郎
著者情報
ジャーナル フリー

2011 年 17 巻 p. 81-95

詳細
抄録

多様な利害関係者による討論フォーラムをつくる政治を実現すれば,リスクをめぐる紛争が暫定的に解決するというたいへん説得力をもった見方がある。理性的な対話を保証するための手続きは,各地での環境紛争を経験するなかで,社会的に制度化され洗練されてきた。

本稿が考察の対象とした,企業誘致的な発想で候補地を公募し合理的な手続きによって適地を選定する手法は,コミュニケーションの形式にもとづいて,実践的な討議を経て意思決定を実現する可能性を開いたといえる。それらの制度的洗練からは,環境リスクの配分にかかわる社会的決定の仕組みの定着を読み取れるかもしれない。しかしながら,制度はプロセスによって実現する。したがって,そのプロセスにおいて,紛争に向き合わざるをえない人びとが抱える多様なバックグランドやノイズが均質化され,彼らの抗いの意味が合理的に脱色されてきたとすれば,規範化された制度の正当性がいかに称揚されようとも,それは,地域社会の現実に開かれた実践解とはならない。コミュニケーションの形式は,廃棄物処理をめぐる環境紛争の解決を図る対抗的分業のなかで「正義の強者」となって地域社会のまえに現れるだろう。公募形式をめぐっては,迷惑を「地域振興」に読み替え,地域社会の「自己決定権」を鼓舞したとしても,それらを必要とする側が向き合わなければならない責任を低めることにほかならないとすれば,政治的な審級の及ばない討議の空間を作り出し,個別の地域社会と全体社会との連帯を困難にするだろう。

著者関連情報
© 2011 環境社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top