環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 複合過酷災害への応答――加害・被害の観点から
組織的無責任としての原発事故――水俣病事件との対比を通じて――
平岡 義和
著者情報
ジャーナル フリー

2013 年 19 巻 p. 4-19

詳細
抄録

2011年3月,東日本大震災によって福島第一原子力発電所において未曾有の大事故が発生した。この事故は,東京電力が主張するような「想定外」の事象ではない。さまざまな報告書が指摘するように,津波のリスク,全電源喪失のリスクは,いずれも事故以前に指摘されていた。にもかかわらず,東京電力,経済産業省原子力安全・保安院,内閣府原子力安全委員会の多くの不作為が積み重なり,適切な対策が取られなかったことが,結果として事故につながったのである。その意味で,この事故は,「組織の逸脱(organizational deviance)」ないしは「組織体犯罪(organizational crime)」という観点から考察することができる。

本稿では,この事故同様大きな被害をもたらした水俣病事件と対比しつつ,福島事故の経緯を検討する。そして,両者に通底する「組織的無責任(organizational irresponsibility)」のメカニズムを指摘することにしたい。それは,事業者と規制当局が相互依存関係の中で,経営リスクなどの外的圧力のもと,本来対応すべき「問題」を外部との「コンフリクト」として処理してしまうというものである。それを正当化するために用いられるのが,厳密な証明を求める実証科学の論理なのである。こうしたメカニズムは,組織においてつねに働く可能性があり,巨大技術の不確実性と相まって,根本的に事故のリスクをゼロにすることはできない。その意味で原発事故は不可避と言える。

著者関連情報
© 2013 環境社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top