環境社会学における人間-野生動物関係に関する重要な議論として,野生動物と「近い」関係をもつ住民は被害を許容し,「害獣」との「共存への意志」を抱きうるという主張がある。ただし,その意義が地球上の人間-野生動物関係の歴史的・地域的な多様性を視野に入れて検討されてはこなかった。本稿の課題は,先行研究に見られる「距離の近さ-被害の許容-共存への意志」という連続性がつねに成立するのかどうかを,その理由も含めて東アフリカの2地域社会を事例に検討することである。本稿は地域社会・野生動物によって人間-野生動物関係は多様であり前述の連なりがつねに成立するとは限らない点を示すとともに,その多様な連続性を理解するうえでは広義の「社会的」関係の影響下で動的に(再)生産される「関係の〈意味〉」が重要であること,そして,時代や種類によって異なりうる野生動物との「かかわり」のすべてが住民によってつねに支持されるとは限らない以上は,「かかわり」をアプリオリに肯定したり,特定の野生動物から自然へと「共存」の議論を安易に接続したりすることは問題であることを指摘する。