環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 環境社会学のフィールド―〈現場〉から学ぶ―
フィールドから学ぶ環境文化の重要性
吉兼 秀夫
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1996 年 2 巻 p. 38-49

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抄録

環境に対する見えざる手が働かない時代において、人類が長い年月かけて形成してきた環境文化の見直しとその新たな創造についての研究は、環境社会学にとっても重要な分野である。〈環境文化〉とはその地域の人間が学習してきた環境に対する作法といえるものである。

本稿ではフィールドでの研究を通して確認した環境文化とその重要性を明らかにする。それらは、地形を読み取り自然現象を被害に結びつけない住まい方の工夫、神への崇りに託して災害を回避し、自然と共生する工夫である。限定された空間における最適空間の維持のため、お互いが同一の規範を守ることであり、それを犯すことによって連鎖的に生まれる環境の地獄絵を知ることである。また環境保護の主体性を軽視して外的に環境保護制度を持ち込むことによって外部依存化が進み、内なる環境維持力が逆に衰退してしまうことについてである。

環境文化が喪失し、衰退するところで環境は破壊されていく。環境に関わる地域の記憶の井戸を掘り、豊かな環境文化を汲み出し、各井戸の水脈を介して環境を護っていくことが今大切である。環境保護活動とは環境文化の忘却に対する記憶の戦いであり、環境文化の喪失によって失われたものの復活ののろしである。

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© 1996 環境社会学会
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