環境社会学研究
Online ISSN : 2434-0618
特集 コモンズとしての森・ 川・ 海
生活実践からつむぎ出される重層的所有観―余呉湖周辺の共有資源の利用と所有―
嘉田 由紀子
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1997 年 3 巻 p. 72-85

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抄録

所有関係は、かつて人と人の関係としてとらえられてきたが、環境問題が社会問題化されるにつれて、人と自然のかかわりの中でアプローチする立場があらわれてきた。本稿は、これまで所有関係へのアプローチが観念的、制度的であった限界を越えて、人と自然のかかわりが埋め込まれている地域社会での日常的な生活実践の中から、所有意識とその実態を探る。方法は、写真による「資料提示型インタビュー」であり、余呉湖周辺を事例としてとりあげる。ここは、ひとつの村落が、湖、水田、河川から森林まで一括管理しているミニ盆地ともいえる複合生態系を有しており、生態的場の多様性にあわせた所有観をたどるのに格好の地域である。ここで明らかにされた所有関係の基本は、対象資源の生態的特性と空間、時間という組み合わせのなかで関係論的にきまってくる“重層的所有観”であり、「一物一権主義」という近代法の原則と大きく異なる。そこには〈総有〉ともいうべき基本原理が働いており、背景には、“労働”(働きかけ)と“資源の循環的利用”のなかで村落生活を維持しようとする生活保全の原理がはたらいている。

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© 1997 環境社会学会
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