1999 年 5 巻 p. 91-103
米国において社会問題化している、ブルーカラー層やマイノリティ地域における環境負荷の不平等な蓄積、いわゆる環境的不公正の告発は、1980年代に端を発する。多くの統計的調査や事例において、ブルー・カラー層や人種的マイノリティ地域の環境保護が、白人地域に比べ大きく後退していることが報告されてきた。しかしながら、米国ではより開かれた意思決定過程を実現するために、1960年代から住民参加政策が取られてきている。環境の分野においても、1969年に制定された「国家環境政策法(NEPA)」において、住民参加が環境行政の一環として位置づけられたのである。
開かれた意思決定が可能である社会において、どのようにして環境的不公平という問題が生まれ、さらに環境正義運動という対抗的な社会運動が発生するのだろうか。本稿では、化学工場の建設をめぐり米国南部で発生した反公害運動を事例として取り上げ、米国の環境保護政策における住民参加政策の意義と課題について論じた。