アメリカ先住民族居留地は先進国アメリカの中にありながら,失業・貧困・環境破壊という開発途上国と同様の問題を抱えている。環境レイシズムと評されるこうした格差をいかに是正していくかという問題も,先進諸国に課せられた重要な課題であろう。
本稿で取り上げるズニ族環境保護プロジェクトは,1992年の世界環境サミットで砂漠化防止の行動計画の一つに選ばれた先住民族主体の環境保護に向けてのとり組みである。その特徴は次の三点に要約される。第一は伝統文化の維持と自然との共生をめざしたプログラムであるという点である。第二は受益・受苦という対立構造ではなく,「修復」という共通課題に向けてのマクロなアメリカ政府とミクロレベルの先住民族との協働プロジェクトとして結成されている点である。第三は環境保護のみならず環境開発に向けても積極的にとり組むことで,元来社会的な力の強弱によって不均衡を生じていた一面をもつ環境開発を,影響を被る側から捉え直し,考え直そうとする視点を提供した点である。本稿は以上の点をふまえ,先住民族自らが居留地の環境問題にとり組んでいく過程を通して,伝統文化の再構築と環境との共生構造を明らかにする試みである。