菌類ノ發育ニ及ボスオリザニンノ影響ニ就キテ

抄録

1911年FUNK氏ガ始メテ抗脚氣性強キ結晶性窒素化合物ニVitaminノ名稱ヲ附セル以來高等動物、細菌及酵母ニ對スルビタミンノ作用ニ關スル多クノ研究結果ノ公表ヲ見タルモ植物病害菌ニ對スル研究ハ極メテ其數尠シ。依リテ吾等ハ本邦稻作ニ大ナル被害ヲ與ヘツ、アル稻胡麻葉枯病菌、馬鹿苗病菌及稻熱病菌ノ三種ヲ選ビ是等ニ對スルオリザニンノ影響ニツキテ研究セリ。本研究ノ詳細ニツキテハ札幌農林學會報第百六號ニ於テ公表セル所ニシテ茲ニ其要項ヲ摘記シテ報告セル所ナリ。
本實験ノ豫備トシテ高盗及高壓ニ對スルオリザニンノ安定度ヲ確カメ普通ノ方法ニテ加熱殺菌ヲ行フモ殆ンド安定ナルヲ認メタルニョリオリザニン加入培養液ヲ古弗氏蒸氣殺菌器ニテー時間宛二囘二日間ニ殺菌セリ。尚市販オリザニンニハ約15%ノ酒精ヲ含ムニヨリ之レノ作用ニツキテ實験シ胡麻葉枯及馬鹿苗兩病菌ノ發育ニ對シテハ培養液中約3%迄ノ酒精含有ハ殆ンド影響ナク、稻熱病菌ノ場合ニ殆ンド影響ナキガ如シ。是等豫備實験ノ後本試験ヲナシテ得タル結果ヲ総括スレバ、次ノ如シ。
1. 胡麻葉枯病菌及稻熱病菌ハオリザニンノ添加量大ナル程良好ナル發育ヲナスモ馬鹿苗病菌ノ場合ニハ然ラズシテ最適濃度ハ13%前後ナリ。
2. 通常ノ無機合成培養液ニオリザニンヲ添加セバ、胡麻葉枯馬鹿苗兩病菌ノ分生胞子形成ハ促進セラル。
3. 供試菌ハオリザニンヲ炭素源、窒素源トシテ與ヘラレタル場合ニ善ク發育シ、6或ハ10%ノ如キ多量添加ニテ發育旺盛ナリ。
4. オリザニンヲ窒素源トシテ添加セバ、普通ノ窒素源(KNO₃、NH₄NO₃)ヲ含ム培養液ニ比シ分生胞子ノ形成ハ促進セラル。炭素源トシテ添加セル場合ハ然ラズ。
5. オリザニンハ供試菌分生胞子ノニ發芽ヲ促進ス。而シテ其濃度ニヨリ作用ニ強弱アリテ最張促進作用ハ三菌ニ於テ何レモ0.2%前後ナリキ。
6. オリザニンハ15-20℃ノ如キ比較的低温ニ於テ三菌ノ發育ニ對シ尤モ有効ナリキ。
7. オリザニン添加ニヨリ何等ビタミンノ特性ト思ハルル形態的變化ヲ認メザリキ。
8. 吻合菌綜ハオリザニンヲ添加セル培養液ニ於テモ、然ラザルモノニ於テモ形成セラレ、從ツテビタミンBノ影響ナリト認ムルヲ得ズ。
9. オリザニンハ菌類ノ發育促進物質トシテヨリモ寧ロ營養物質トシテ重大ナル役割ヲ演ズルモノナリト認メラル。