いろろ (Ishige foliacea OKAMURA) ノ生活史ニ就イテ

抄録

1) 三河灣方面ニ於ケルいしげ型トいろろ型ノ分布ニハ地域的ノ差ガ見ラレ且ツ兩者ノ游走子ノ大サニモ差異ガ見ラレル。之ヨリ見ルニ兩者ハ各ゝ獨立ノ種ニ分ツ方ガ妥當ナラント思惟サレル。
2) 泉村實驗所附近ノ海岸デハいろろハ3-6月頃最盛ノ生育ヲ示シ, 4-8月頃ニ游走子ヲ放出スル。7月頃ヨリ葉體ハ枯死流失ヲ始メ9-10月頃ニハ大型葉體ハ見ラレナイ。10月頃ニ微小體ガ現レ始メ冬期ハ徐々ニ成長スルガ翌年1-2月頃ニナルト速ヤカニ成長シテ漸次盛期ニ入ル。
3) 昭和16年4月ヨリ17年2月末マデノ培養デいろろノ生活史ヲ明ニシ得タ。游走子ハ休止後直チニ發芽シテ多クノ分枝ヲ有スル原絲體状トナルガ夏季ニハ各枝ノ關節細胞ガ膨大シテ厚膜ヲ被リ休眠スル。晩秋ニナレバ此休眠細胞ヨリ直立枝ヲ生ジ顯微鏡的微小ノ配偶體ガ作ラレル。此體ニ複子嚢ガ作ラレ其中ニ配偶子ガ生ズルガ, 株ヲ別ムシテ大小二種ノ配偶子ガ見ラレル。兩配偶子共ニ運動性ヲ有シ一對ヅツ接合シテ接合子ヲ作ル。接合子ハ發芽シテ種々ノ形状ノ匍匐絲状體トナル次イデ此ノ匍匐體上ニ1乃至數本ノ直上スル枝條ガ現ハレ, 分枝ト伸長ヲ繰返シ, 互ヒニ縺レ合ヒ胞子體始源ノ主軸ヲ形成スル。是ヨリ成體ヲ作ルマデニハ成功シナカツタ。
大小ノ配偶子ハ兩者トモ單爲的ニ發芽シ, 此發芽體上ニハ再ビ配偶子ガ形成サレタ。
4) 分類上ノ位置ニツイテ考察スルニ, 太型ノ胞子體ト顯微鏡的微小ノ配偶體トノ交番ガ行ハレ, 配偶子ハ兩者共ニ運動性ヲ有スル事及ビ複子嚢ノ形態ハ, 胞子體ガ絲状細胞ヨリナル事等ト共ニ Chordariales ノ特徴ト一致スル故ニいしげ科ハ或ハ茲ニ配シタ方ガ妥當ナランカト思ハレル。又胞子體形成ノ初期ノ過程ガえらきすた, くろもニ類似シ, Ectocarpus 状ノ直上枝ガ互ヒニ縺レ合ツテ主軸ヲ形成スル點等ハ何カ之等トノ間ノ類縁關係ヲ暗示スルニ非ズヤト思ハレル。