なんきんまめ結果機構ノ生理學的分析

II. 果梗上ニ生ズル根毛樣器官

抄録

なんきんまめハ受精後果實ノ發育迄ニ長時日ヲ要スルモノデアルカフ, 植物ノ結果機構ヲ分析的ニ研究スルニハ好都合ナ材料デアル。
著者ハ先ニ主トシテ茄科植物ヲ用ヒテ實驗シ, 高等植物ニ於テハー般ニ授粉サレタ花粉ノ出スホルモン樣物質ニヨリ第一次的ノ刺戟ガ與ヘラレ, 次ニ受精ノ結果出來タ胚ノ出スホルモン樣物質ニヨリ第二次的刺戟ガ與ヘラレテ, 果實ノ發育スルモノデアル事ヲ知ツタ。夫レデ尚更ニ此他ニ働クモノガアルノデ無イカ。此點ヲ追及スルニハ何トシテモ受精後果實生成マデニ長時日ヲ要スルモノヲ材料トセネバナラヌ。なんきんまめガ材料トシテ選バレタノハ斯ル理由ニヨル。
此種ノ實驗ノ遂行中, 果梗(Gynophore)ニ根毛樣器官ノ發生スル事ヲ見タ。發生學的ニハ全然根ト異ル器官デアリ乍ラ, 地中ニ生長スルト云フ生理的ニ相等シキ外的條件ノタメ果梗上ニ根ト同樣, 根毛樣器官ノ出來ル事ハ適應ト云フ見地カラシテ興味深キ事デアル。
此毛ノ普通ノモノハ根毛同樣單ニ表皮細胞ノ伸長シタモノデ, 單細胞デアルガ, 稍々長ジタ果梗ヲ水中ニ入レルト表皮ヲ押被ツテ多細胞ノ念珠状ノ毛ガ出テ來ル。此單細胞ト多細胞ト二種ノ毛ハ形態的ニモ發生機構ニ於テモ著シク異ルガ, 機能ハ同ジモノラシイ。
此毛ハ空中ハ勿論, 乾土中デハ發生セズ, 濕土ヤ水中デハヨク發生スル。而シテ此毛ヲ生ズル樣ナ條件ニ於テノミ果實ガ發育スルノデアル。
水中ニ生ジタ果實ハ全面綿毛デ被ハレタ樣ニナルガ, コレハ上記二種ノ毛ヲ密ニ混生スル事ニヨル。土中ヤ寒天中デ結ンダ果實ニハ斯ル毛ガナク, 表面ガ平滑デアル。斯ル事カラ見テ, 此毛ノ發生スルノハ全ク細胞ノ膨壓ニヨルノデハ無イカト考ヘ, 砂糖液中ニ果梗ヲ生長サセタノデアルガ, 濃度ノ高マルニツレテ根毛状器官ノ發達ガ惡クナリ, 70%蔗糖液中デハ全然其發生ヲ見ズ, 單ニ表皮細胞ガ外面ニ向ツテ稍々膨ラム程度デアツタ。