植物学雑誌
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植物體内滲透系と温度變化及び温度傾度との關係の理論的考察
西内 光
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1946 年 59 巻 693-694 号 p. 19-25

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抄録

植物體内滲透系について温度變化および温度傾度の存在する場合その間の吸水平衡ならびに物質移動關係を滲透壓論より考察する.
1) 半透性膜をもつ細胞によつて周圍がかこまれた管内の溶液と細胞液との吸水平衡と温度變化との關係について考へる. 理論上, 温度の變化によつて細胞液と汁液との吸水平衡は變化する. したがつて細胞の吸水の結果の膨壓も變化する理である. このことは氣孔の開閉•穎果の開閉•成長•低温における細胞の脱水•耐寒處理などの温度關係に關與する筈である.
2) おなじく半透性膜をもつ細胞を周壁とする液管について, 長さの方向に温度傾度のある場合を考へる. 前述の吸水平衡と温度との關係の結果に基づけば, 高温部の液管内溶液部分は低温部の液管内溶液部分より高濃度となる. 溶液内の擴散現象を溶質分子の移動と同時に逆方向へ溶媒分子の移動があり, 即ち一の分子交換現象とみなす. さうすれば前記の液管内においては高温部より低温部に溶質が移動し同時に逆方向に溶媒が移動する傾向をもつ筈である. これを植物體内物質移動に關する温度系効果 (Effect of temperature system) となづける.
篩管は半透性膜をもつ細胞を周壁とする液管といふ條件に該當する. 故にこの温度系効果による物質移動傾向は篩管部における同化物質. 子のほかの物質の移動に關聯すると思ふ.

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