植物学雑誌
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色素體の細胞學的研究II
湯淺 明
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1950 年 63 巻 750 号 p. 291-308

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抄録

1) シダ植物の葉緑體は, 基質とその中にふくまれた緑ラセン (green spiral) とからなり, 基質の外圍はうすい原形質膜につつまれている。緑ラセンは不規則に廻旋し, 多くは, その上にふくらみをもつ糸で, この中に葉緑素がふくまれている。白色體 (leucoplast) および有色體 (chromoplast) も, その中にラセン構造を藏しているものと思われる。
2) シダ植物以外の高等植物では, 固定染色したときに, 原則としてラセンづくりがつられるが, ときにラセンは圓板状體に連絡したり (ヒルムシロ屬の1種), また粒状體がラセンの糸によつて結ばれた形 (ハマユウ) となつていることもある。生體でも緑ラセンのみえることが多い。また, デンドロビウムのように同化産物が大部分で, 緑ラセンはきわめて歩なく, したがつて, 粒状にみえることもある。
3) 目かげまたは暗所におくと, 一様構造にみえた葉緑體にも緑ラセンが明かとなる。2/5MNH4Cl水溶液によつて, コンテリクラマゴケの葉緑體などは, 緑ラセンはふくらんで, ラセンづくりは不明瞭となる。ある植物では, 一様にみえる葉緑體も酸, アルカリ, 固定液などによつて, 緑ラセンを示す。緑ラセンを示す葉緑體は, 日かげまたは暗所に12時間くらいおくと, 緑ラセンはさらに明瞭となる。
4) 盛に原形質流動をしている細胞中で, 葉緑體は緑ラセンの明瞭な状態と不明瞭な状態との間に, うつり變わりをする場合もある。
5) 色素體の基礎構造は緑ラセンであるが, granaまたは一様構造との間に天然にも, また人爲的にも可逆的變換がある。つねに緑ラセンを示す植物もある。緑ラセンからgranaにうつるときは, ラセンづくりのみのこして, 葉緑素がgranaにあたる部分にあつまつてgranaを構成し, granaが緑ラセンにうつるときには, 葉緑素がラセンづくり全體にふくまれるようになるものと思われる。
いろいろな植物の色素體の構造をつぎのように示すことができる。[1] つねに緑ラセンを示すもの (イワヒバ, オモト, サンショウモ, その他多くのシダ植物)。これらの状態は, 人爲的に一様構造に變わることができる。[2] 自然状態で, 一様構造と緑ラセンとの間に轉換するもの (シクモ, フラスモ, ツノゴケその他)。これらの變換は人爲的にも行わせることができる。[3] Granaが細い糸で, つづけちれているもの (ヒルムシロ屬, ハマユウなど)。完全にgranaの状態になつている場合もある。また, granaから緑ラセンにうつり變わる途中の状態にも, このようすのみられることがある (たとえばマツモ)。[4] Grana状と緑ラセン状との間に, 變換しうるもの (スギナ, イヌワラビ, ジャゴケ, タマネギ, マツヨイグサ)。
6) 色素體の緑ラセンや基質のと, 膨潤, 失潤, 色素體の可逆的凝固などによつて, 緑ラセンの變換は説明できる。
7) Heitz (1936, 1936) のgranaは, 緑ラセンの光學的斷面, 緑ラセン自身のふくらみ, ちみつにまいた部分, 同化産物である場合のほかに, 實際granaを示して, 緑ラセンとの間に變換する場合もあると考えられる。從來, あみ状, せんい状, 一様, 粒状などと考えられた場合, 電子顯微鏡による像など竜, 緑ラセンを元とのて説明することができる。
8) 葉緑體の外圍には, 形態學的にはみにくいが, 内部と構造のちがう膜部分があると考え得る。
9) コンテリクラマゴ, ケタチクラマゴケ, イワヒバなどでは白色體, 有色體, 葉緑體は, 部分によつてふつう型, 二割型, および縦割型の三つの型の分裂を行う。
10) 分裂に要する時間は, ふつう型は平均約14時間, 二割型は平均約12時間, 縦割型は60分くらいである。色素體分裂と澱粉粒形成との間には, 密接な關係がある。ふつう型の分裂は, 夜は19~ 翌日2時に終るものが多いが, 書間も澱粉形成と關係しつつ分裂がおこなわれており, ほとんどつねに分裂期にあるものがみられる。
11) イワヒバ屬では, 色素體分裂において, 緑ラセンの行動は規則正しく, とくに縦割型の場合には, そのようすが明かである。しかし, 他の植物では, このような規則正しさは失われている。
12) 色素體分裂における緑ラセンの行動は, 染色體のラセン糸の行動と似ており, 前者はこれによつて色素體の基本構造が2娘色素體に等しくわけられるしくみであり, 後者は遺傳子が2娘核に等しく分配されるしくみである。また, 色素體と核との構造もラセンづくりで等しいことは, 色素體が元來, 核と關係が深いものではないかということを思わせる。
13) いろいろな試藥の中に, イワヒバ屬の葉を入れて色素體分裂を行わせてみると, 分裂がやや早くなるもの, 阻害されるものなどがあり, 適當な方法によつて, 分裂促進の可能性があると考えられる。

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