植物学雑誌
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カリウム供給量と植物體の蒸散度•蒸散効果•含水度並びに組織粉末比重及び組織粉末吸顯度との關係
山下 知治
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1951 年 64 巻 751-752 号 p. 18-25

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抄録

加里供給量を異にし他の條件を可及的等しくして培養したトウゴマ•ワタ兩植物を用い, その發育初期40日間の蒸散量•生長量及び培養を打ち切った際の植物發各部の含水量•組織 粉末の容積•比重•吸濕度を測定し蒸散効果•所謂全體蒸散體及びその書夜比の算出を行い加里との關係を檢討した。本研究では根の生長量々も算入したいわゆる全體蒸散度なるものを比較することの必要を認め, 根の採取秤量を正確に行い得る樣に水耕法を用いた。實驗結果の表示には, 本研究の如き場合は從來慣用の諸表示法では夫々に誤差を伴う虞れがあるから, 專ら組織粉末法を用い, その立場から加里の水分生理學的役割を究明しようとした。成果は:
1) 個體當り生長量(組織粉末容積)は加里の供給量減少に伴つて著しく減少し, 特に根 においてそれが顯著であった。
2) 個體當り蒸散量も亦加里供給量と平行的に増減した。
3) 加里供給量の減少に伴う生長量の減少率は蒸散量のそれよりも大であり, 從つて蒸散効果は加里供給量の減少によつて低下した。
4) 植物體各部の含水度•組織粉末比重•同粉末吸濕度は何れも加里供給量とほぼ平行關係にあることが確認された。これらの事實から加里は植物體内の物質充實度を高め, 從つてまた植物體の水分保留力を木ならしめるものと推定され, 同時に加里供給量の異る植物體内の水分生理學的性能を診斷する上に, 組織粉末法を利用することの効果が認められた。
5) 含水度•組織粉末比重及び吸濕度の測定成績から見て, 加里は特に根の吸水力•保水力を増すことに關與すると推定された。
6) 書間 (6時-18時) の蒸散量と夜間 (18時-6時) のそれとの比は加里供給量と平行 的に増減した。すなわち加里の供給は書夜による蒸散作用の變化の幅を大ならしめた。
7) 地下部の量をも算入しての植物體全體の組織粉末單位容積當りの單位時間内全蒸散量を全體蒸散度と稱え, これで表わした蒸散度は書夜共に加里供給量と反比例的關係を示した。
8) 夜間における蒸散度の低下率は加里供給量の少い區において小であり, 從つて加里の減少に件う蒸散度の増大は書間よりも夜間において大である。
9) 以上を綜合して本研究は, 加里が植物體の吸水力或は水分保留力の強化•水分浪費の 防禦•蒸散作用の調節等を通じてその水分經濟を有利に保ち, 蒸散効果を大ならしめるものであることを組織粉末法の立場から新たに確認したものということが出來る。

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