1959 年 72 巻 849 号 p. 91-100
東大の服部教授の研究室で, ルチンを分解する菌が分離されたので, その同定を行なった。本菌は酵母に非常によく似ているようだったが, 培養条件により Pullularia の特徴の片鱗を示したので, 長尾研究所からの Pullularia pullulans と比較してみて, Pullularia に属させるべきものとわかった。
Pullularia は従来 P. pullulans と P. werneckii の2種だけ知られていたが, Wynne (1956) はホジキン氏病患者の病巣から Pullularia を分離し, それがある炭水化物から酸を生成するので Pullularia fermentansという新種をもうけて Pullularia 属の定義を修正するよう提唱した。その修正の基礎は Pullulariaの分類のを規準として炭水化物からの酸形成能を採用することにある。東京からの本菌は, その形態とWynne の提唱による分類規準とからみて P. fermentans var. fermentans にもっとも近縁であった。しかしたいていの培地上で Pulluaria の特徴である暗色色素を形成しないこと, 巨大コロニーの様相が特異であることから新変種とし, Pullularia fermentans var. candida とした。なお本菌は高張培地にもかなりよく耐えるが, それは比較に用いた P. fermentans var. fermentans や長尾研究所からの菌 so-labelledP. pullulans とも異なるので, この新変種の天然のすみかは, 従来しられている Pullularia のすみかとは異なったものと思われる。
この研究では Pullularia の四つの菌株について, 暗色色素の形成とコロニーの様相が種々の条下件で比較されたが, Pullularia の暗色色素形成と生長の速度とが, ある場合には, 簡単な化学物質によって支配されることがわかった。それで Pullularia のある菌株は microbioassay の研究材料としてもよいのではないかと思われる。