1962 年 75 巻 887 号 p. 163-169
ブライトィエロー種タバコ種子の暗発芽に対する有機酸の影響をM/100の濃度で発芽床に与えられたピルビン酸, 酢酸, クエン酸, α-ケトグルタル酸, コハク酸, リンゴ酸, 酒石酸などのpHを NH40H, KOH で pH0.2間隔で調整することによって検討した. 実験の範囲では酢酸とα-ケトグルタル酸を除き他の酸は NH40H で pH を調整された場合に, かなり広い pH 域にわたって暗発芽をひきおこす. その最適 pH は 4.7 附近である. これらの酸はまた, それ自体では発芽を起こさせることのない濃度のジベレリンと共存させられることによって, pH4.0より酸性の域で顕著な発芽をひきすが, それとともに pH4.7附近でもこうした作用が認められる. また pH4.7 での有機酸と NH40H とによってひきおこされる暗発芽は, 貯蔵期間の長い種子では次第に低くなり, ついにはジベレリンを共存させても発芽しなくなる. これらのことからこの pH における暗発芽に注目をした. この pH 域における暗発芽には有機酸とNH40H とから合成されると思われる物質と, ジベレリンによって代用される物質とが必要であり, 貯蔵期間の短いものではこの両物質ともかなり (暗発芽をおこすには少し不足) の量で含まれており, わずか補給するこにより発芽がおこると推察する. この場合ジベレリン様物質の不足の程度はやや軽微であり, 有機酸とNH4OHが与えられれば, 種子中に残存する合成機能が発揮され必要な物質がつくられ, 発芽がおこるが, 貯蔵期間が長くなると発芽に必要な両物質の不足が大きくなり, また合成能の低下に伴ってジベレリンも補給する必要が生じ, さらには有機酸の NH4OH およびジベレリンを与えても発芽が起こらなくなることが考えられる.