植物学雑誌
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シケチシダ属の細胞分類学
栗田 子郎
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1964 年 77 巻 910 号 p. 131-138

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抄録

Birは Cornopteris birii でn=82 を観察したことから, シケチシダ属はメシダ属 (x=40)よりもヘラシダ属 (x=41) に近いものだという見解を述べた. しかし筆者はx=40 と x=41 の二系を観察できたので, シケチシダ属は独自の一群としてあつかうのが妥当と考える. 個々の種については, イッポンワラビと n=40 の二倍体で, シケチシダは n=80 の四倍体である.しかし伊豆湯ケ島産のシケチシダは 2n=ca. 160 で四倍体と思われるが, 減数分裂に異常があり第一分裂で一価染色体と二価染色体とがみられる. 稔性をもった胞子は形成されぬらしい. この個体は, いわゆるヒロハシケチシダに相当するものと考える. 一方, タカオシケチシダは 2n=ca. 80であった. ハコネシケチシダは形態的にイッポソワラビとシケチシダの中間型を示しているが, 染色体数2n=ca. 120 で明らかに三倍体である. 第一減数分裂においても約40の二価染色体と約40の一価染色体とがみられる. 分布などをも考慮すると, ハコネシケチシダはイッポンワラビとシケチシダとの交雑によって生じた種といえると思う. 田川博士が C. decurrenti-alata (シケチシダ)の異名と考えた C. opaca (ナンゴクシケチシダ,倉田
氏仮称)には n=41 のものと n=ca. 82のものとがある. 染色体数, 表皮細胞の形態その他の点を考慮すると C. opaca は独立種とするのが妥当だろう. ホソバシケチシダにも二系がある. 典型的なホソバシケチシダはn=40の二倍体で, いま一つ(ヤクシケチシダ, 倉田氏仮称)は同様に二倍体ではあるが,第一減数分裂における相同染色体の対合がまったく見られない. 80個の染色体の内, 一対は大型で大部分がヘテロクロマチソから構成されている. ヤクシケチシダは形態的にはホソバシケチシダとナンゴクシケチシダの中間型を示すといわれるが, 染色体数, 表皮細胞の形態などからみて, ホソバシケチシダの構造雑種だろうと考える.

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