1964 年 77 巻 912 号 p. 206-215
土壌含水量低下に対するタバコの生態生理学的適応性を明らかにするために蒸散効率を解析した,発 芽後37日目のタバコを栽植密度を変えて鉢植えし,4,000luxの連続照射,温度29°,湿度64%,CO2濃度 0.035%のもとで28日間栽培した.湿潤区(M)の鉢の土壌含水量は実験期間中ほぼ野外容水量(65%)に保っ た.乾燥区(D)では実験開始時と,それより10日後とに85%になるまで給水した.土壌含水量は2回目の給 水より10日後にほぼ永久しおれ点(30%)に達した.土壌水分が減少するにつれてD区では葉の水分欠差が 高まり,単位葉面積あたりの葉乾重が増加した.また側根の直径がいくぶん減少した.相対生長率は実験 期間中M区ではあまり差がみられなかったが,D区では後期に著しく低下した.しかし純同化率は実験 期間を通'じて両区の問でほとんど差がみられなかった.実験開始後20日間の水消費量と乾物増加量とから 求めた蒸散効率はD区の方がM区より大きかった.蒸散効率に関する関係式をつくり,その要因を検討 した結果,単位葉面積あたりの茎(葉柄を含む)の生量減少と葉の蒸散率の著しい低下がD区の蒸散効率を 高めた主な要因であった.
以上の結果,水供給が制限された植物では葉の蒸散率が著しく低下し,葉面積生長に比して地上部非 同化器官の生長が低下して植物体の水消費が抑制される.一方,単位葉面積あたりの側根の生量が増加し, 側根の直径が減少して葉の水分欠差の増加が抑制される.さらに単位葉面積あたりの葉の乾量の著しい増 加が葉の水欠乏による光合成能率の低下を軽減して,耐乾燥性が高められると推論される.