植物学雑誌
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常緑葉組織における過冷却の葉令にともなう変化と細胞間隙量•細胞浸透価および 含水量との関係
賀来 章輔
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1966 年 79 巻 932-933 号 p. 98-104

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抄録

ハラン (Aspidistra)サンゴジュ (Viburnum) およびヤツデ (Fatsia)の葉組織において, 過冷却点の 葉令にともなう変化, ならびに晩秋より翌春にかけての成熟葉におけるその季節的変化を測定した. また, 葉組織の細胞浸透価. 含水量および細胞間隙量についてもどうようの測定をおこない, これらと過冷却と の関係を考察した.
1. ハランでは, 葉組織の成熟にともない過冷却点は明らかに低下する. サンゴジュとヤツデでは, こ のような明瞭な変化は認められない. しかし, 両植物の成熟葉における過冷却点は未熟葉のそれより高く, ハランの場合とは逆の関係を示す. 成熟葉の越冬期における過冷却点の変化は, 各植物ともに約1゜程度で 季節的変化は認められない.
2. これらの3植物では, 葉組織の成熟にともない細胞浸透価は漸増し, 含水量は漸減するが, これら の変化は過冷却点に影響をおよぼすほど大きいものではない.
3. ハランおよびサンゴジュの葉組織においては, 細胞間隙量も葉令にともない変化するが,両植物で 逆の傾向を示し, 過冷却点の変化とよく関連する. すなわち, ハランでは葉組織の成熟にともなつて細胞 間隙量は増加し, 過冷却点は低下するが, サンゴジュでは逆に前者は減少し, 後者は上昇する.
4. 未熟および成熟両葉組織における過冷却点の相違は, 細胞間隙に水を浸潤させた場合には減殺される. そしてこのときの過冷却点の高まりの程度は, 細胞間隙量の大きな組織においてより著しい. また, この 浸潤処理をほどこした両組織を対照の含水量まで風乾すると, 過冷却点の差が対照と同程度に再現する. すなわち, ハランおよびサンゴジュの未熟および成熟両葉組織における過冷却点の相違は,細胞間隙が空 気でみたされているとき顕著に現われ, 細胞間隙のよく発達した組織ほど過冷却能力は大きい.

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