視覚の科学
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本・論文紹介
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2018 年 39 巻 4 号 p. 117-118

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論文紹介

Rosenfield M, Ciuffreda KJ, Hung GK, Gilmartin B.

Tonic accommodation: a review.  I. Basic aspects1)

Tonic accommodation: a review.  II. Accommodative adaptation and clinical aspects2)

1) Ophthalmic Physiol Opt. 1993; 13: 266–284.

2) Ophthalmic Physiol Opt. 1994; 14: 265–277.

20世紀の終わり頃,調節関連の論文(Hasebe S, Graf EW, Schor CM. Fatigue reduces tonic accommodation. OPO 21: 151–60, 2001)を投稿するにあたり,繰り返し読んだのが,この二つのレビュー論文である。

暗闇の中,霧深い気象に見られる一様視野,ピンホールによる焦点深度の拡大などにより,調節反応の引き金となるボケ情報が取り除かれると,網膜共役点は遠点に対して約1 D近方の位置をとる。この距離のことを,もう一方の視覚運動制御系である輻湊のtonic vergenceと対比してtonic accommodation(T.A.)と呼んでいる。それまで筆者は,T.A.は調節順応との興味深い関連性について何も把握していなかった。

Part 1ではT.A.の性質や測定法について,Part 2では調節順応とT.A.の関係および調節順応の臨床的意義について,平易な英語で語られている。調節と成長に伴う屈折変化の関連や近業に伴う一過性近視についても議論されており,後の「調節ラグによる近視進行仮説」が生まれる基礎となっている。数十年前いや現在でも「仮性近視」を診断し,調節麻痺薬を処方する眼科医は希ではない。おそらくこれは,ガラパゴス医療であり,調節順応に関する知識が十分でなかったために陥ったひとつのフォークレアではなかったか。

いずれにしても調節関連の研究論文を投稿する時には,この古典的レビューを読み,引用文献に目を通し,基礎的知識を把握した上で研究計画を練ることで,アクセプト率が高まることが期待される。

(長谷部聡)

Rozema JJ, Rodriguez P, Ruiz Hidalgo I, Navarro R, Tassignon MJ, & Koppen C (2017) SyntEyes KTC: higher order statistical eye model for developing keratoconus. Ophthalmic and Physiological Optics, 37(3), 358–365.

円錐角膜の光学的データが生成できる統計的モデル

著者のRozemaはベルギーの眼光学系の研究者で,少し前まで眼の光学モデルで有名なNavarroらと共同で眼の光学特性の研究をしていた。本論文では,著者の先行研究である正常眼の統計モデルを発展させて,円錐角膜眼の角膜前後面の光学データを自動生成するモデル,また進行のモデルを提案した。円錐角膜眼の角膜形状は正常眼よりも形状が複雑であることから,形状を説明するためのパラメータが多くなる(つまり基底が多く必要)。そこで,主成分分析を用いて基底数を減らし,多次元正規分布モデルを提案した。直感的には,提案された式の総和は積なのでは,と思うところもあるが,このような統計的モデルが実際の医療現場でどのように役に立つのか,興味のあるところである。

(三橋俊文)

Ajasse S, Benosman RB, & Lorenceau J (2018) Effects of pupillary responses to luminance and attention on visual spatial discrimination. Journal of Vision, 18(11): 6, 1–14

この論文は瞳孔径のダイナミックスに知覚課題が影響を及ぼすことを示した心理学実験の報告であり,視覚のフロントエンドと知覚との関係を扱った興味深い論文である。

一般に瞳孔の大きさは入射光の輝度に依存し,それが低下すると瞳孔径は大きくなる。しかし,結像光学的には大きい瞳孔径は点像分布関数(point spread function)が劣下することにより,空間解像度が低下することが知られている。本論文の実験1では,これに一致した瞳孔径と入射光の輝度の関係を得た。

一方,入射光の輝度によって誘導された瞳孔径の変化に対する周辺視における空間周波数弁別課題の結果は,入射光輝度と瞳孔径との間に上記のような単純な関係はなく,空間周波数弁別課題の成績が,瞳孔径の拡大縮小のダイナミックスと関係していることを示した。これは,瞳孔径のダイナミックスが入射光の輝度変化によって完全に規定される単純な機序ではなく,複雑な仕組みであることを示唆していると本論文では主張している。

瞳孔径のダイナミックスは眼光学系機序を含む初期視覚情報処理過程により制御されていると考えられてきたが,高次視覚情報処理過程の影響下にもあるということを示した興味深い論文である。

(吉澤達也)

Melles RB, Holladay JT, Chang WJ: Accuracy of Intraocular Lens Calculation Formulas. Ophthalmology. 2018; 125: 169–178.

7つの眼内レンズ度数計算式(Barrett Universal II, Haigis, Hoffer Q, Holladay 1, Holladay 2, Olsen,およびSRK/T)の屈折精度を比較した臨床研究であり,白内障術者にお勧めしたい論文である。

対象は18501眼で,2種類の眼内レンズ(非球面着色のSN60WFと球面無着色のSA60AT)について検討している。Lenstarで眼軸長を測定した場合には,両IOLともBarrett Universal IIで最も術後屈折誤差が小さく,次いでOlsenが良かった。眼軸長が23 mmから25 mmの場合には,7つの式は同様に正確であり,結果の差はそれ以外の眼軸長での精度にあることが示されている。また,Wang-Kochの補正眼軸長を用いると過矯正になり近視側にずれることが記載されている。眼軸,角膜屈折力,前房深度,水晶体厚の術後屈折誤差に及ぼす影響の図を見れば,各式の特徴が大変わかりやすい。

(前田直之)

Holladay JT, Simpson MJ: Negative dysphotopsia: Causes and rationale for prevention and treatment. J Cataract Refract Surg 43: 263–275, 2017

Holladayら1)によって報告されたこの論文は,眼内レンズ(Intraocular lenses: IOL)挿入眼の耳側視野最周辺部において,暗い影が見えるという現象を光学シミュレーションから解明を試みたものである。Dysphotopsiaは異常光視症とも呼ばれ,PositiveとNegativeがある。この論文では,軸外入射光が,虹彩とIOLの間の光,IOLのエッジを通る光,IOLの光学部を通る光に分かれることで,網膜上で光が重なる強度の高い部分と低い部分を作り出し,それらがNegative dysphotopsiaの原因となりうるというものである。瞳孔の大きさと位置,IOLの形状と材質,支持部,鼻側の水晶体嚢,κ角等が関与していることが明らかになった。

国内におけるDysphotopsiaの研究結果は,稲村2),そして五十嵐,清水ら3)によって報告されている。著者も照明光学解析ソフトを用いて光学シミュレーションを試みたが,Dysphotopsiaの原因は,IOLの形状,素材,虹彩との関係等で決まる。Positiveの方がNegativeより知覚しやすく,光線入射角80~85度,耳側で起こりやすい。瞳孔が大きく,虹彩–IOL間距離が大きい場合,そしてIOLが高屈折率,ハイパワー,シャープエッジ,小さな光学径,大きな支持部によって,起こりやすい。短期的な対策は,網膜上に生じた明暗の照度分布を崩す仕組みを作ること,理想的な対策は,水晶体の形状に近い設計を目指すことと思われた。

(川守田拓志)

文献 1) Holladay JT, Simpson MJ: Negative dysphotopsia: Causes and rationale for prevention and treatment. J Cataract Refract Surg 43: 263–275, 2017 2) 稲村幹夫:Dysphotopsia(アクリル製スクエアエッジIOLによるグレア).あたらしい眼科 34: 229–230, 2017 3) 五十嵐章史,清水公也,常廣俊太郎,加藤紗矢香,伊藤美沙絵,川守田拓志:白内障術後におけるDysphotopsia発生因子の検討.日眼会誌 122: 223, 2018
 
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