2018 年 39 巻 4 号 p. 85-89
近視人口の増加が世界的に問題となっているなか,さまざまな近視進行に関する研究が行われている。その中で近年,エビデンスのある近視進行抑制法のひとつとして注目されている方法がオルソケラトロジーである。報告による差異はあるものの単焦点眼鏡と比較すると約30から50%の抑制効果が期待できる。また,近視の進行しやすい低年齢においての効果が比較的高いこともわかってきた。アトロピン点眼治療との併用による相乗効果も期待されている方法である。安全性を重視した処方をこころがけ,健全に発展していくことを期待する。
オルソケラトロジーとは夜間就寝時に特殊な形状のハードコンタクトレンズを装用することにより,角膜形状を変化させ屈折異常を矯正する方法である。レンズの中央部で角膜を圧平することにより近視矯正を行う原理はLASIKなどの屈折矯正手術などと同様である。LASIKと比較すると中央部の角膜厚の減少は少ないことがわかっており,オルソケラトロジーの場合は角膜上皮の中間周辺部への移行に伴う相乗効果により,矯正効果が大きくなっているものと考えられている。中等度以下の近視であれば,通常レンズ装用後2週間以内に昼間時の裸眼視力が向上し安定するために満足度の高い矯正法である。
オルソケラトロジーの適応については,日本コンタクトレンズ学会より2009年に第1版,2016年に第2版のガイドラインが策定された1,2)。適応年齢として第1版では,原則20歳以上となっていたが,以降に解説する近視進行抑制効果を期待しての処方が海外および国内でも増加傾向にあり,適切な処方のもとの安全性がある程度確認できたということもあり,第2版では,未成年者に対して慎重処方と追記された。実際に2016年に行われたアンケート調査3)では,全処方者のうち近視の進行しやすい小中学生が6割を占めていることが示されている(図1)。
オルソケラトロジーの対象年齢統計(文献3より引用)。
2015年に施行された全国アンケート調査結果より,各施設における対象年齢として19歳以下が65%を占めることがわかる。
世界的に近視人口の増加が問題視されてきている。全世界の近視人口が2000年に23%であったが,このまま増加し続けると2020年には28%に,そして2050年には50%に到達するとの予想がされている4)。特に私たち東アジア系人種は近視人口率が高く,2050には65%が近視になるとの予想がたてられている。近視の中に占める強度近視の率も徐々に増加傾向にあり2050年には25%に及ぶ予想がたてられている。強度近視になると網脈絡膜萎縮や新生血管黄斑症,黄斑円孔網膜剥離を生じる可能性が高くなるため視力障害を生じることはよく知られており,日本において視覚障害者の認定を受ける原因の第5位となっている5)。これらのことより,近視の進行抑制に関する研究は以前より継続的に行われてきているが,近年世界的に発展してきている。
乳児期にはほとんどが遠視であり,成長に伴う眼軸長の伸長に対して,6~8歳ごろまでは角膜の平坦化や水晶体曲率の変化がおこり,正視に近づくことがわかってきている。それ以降も成長に伴って眼軸長は伸長していくため,角膜や水晶体の代償機構が働かないと近視の進行方向に働いてしまう。一度近視になると,眼軸伸長とともに進行するしかないといえる。近視の進行に関連する因子としてもちろん遺伝要因は大きいが,近年の近視の増加は遺伝要因のみでは説明ができず,環境要因も大きいと考えられている。戸外活動時間の少なさや近業作業時間の多さ6),小児期よりの電子機器使用の増加などが近視増加の一要因となっていると考えられている。
オルソケラトロジーによる近視進行抑制効果についての検討は1969~70年代より行われており,1990年に第2世代のオルソレンズの使用により平均0.14 Dの近視進行抑制効果があったとの報告もある7)。2003年Reimら,2004年にCheungらがオルソレンズの使用による近視進行抑制効果について報告しているが,症例報告にとどまっていた8,9)。これらの報告をうけ,コントロール群をとった比較試験がいくつか行われた10–16)(表1)。2年経過の眼軸長伸長について比較している論文がほとんどであり,コントロール群としてはほとんどの報告が単焦点眼鏡装用群となっている。いずれも6歳から16歳の間の症例をとっており最も近視の進行しやすい小中学生の主に軽度から中等度までの近視学童をターゲットとして研究が行われている。いずれの報告でもコントロール群と比較して30~50%の近視進行抑制効果を認めていることがわかる。特に,Hiraokaら,Choらによって年齢によって抑制効果には違いのあることが示されており,7~8歳でオルソを開始したほうが効果の大きいことがわかってきている14,15)(図2)。若年ですでに近視となっている症例は進行が早いため早期に介入できれば,強度近視にまで進んでしまう確率が減ることが期待されている。
オルソ群 | コントロール群 | 対象 | 近視抑制効果 | ||
---|---|---|---|---|---|
① | Cho P(2005) | 35例 | 眼鏡,35例 | 7–12歳 −0.25~−4.5 D |
|
眼軸長伸長 | 0.15 mm/Y | 0.27 mm/Y | 約44% | ||
② | Walline JJ(2009) | 28例 | SCL,28例 | 8–11歳 −0.75~−4.0 D |
|
眼軸長伸長 | 0.13 mm/Y | 0.29 mm/Y | 約55% | ||
③ | Kakita T(2011) | 45例 | 眼鏡,60例 | 8–16歳 −0.5~−10.0 D 平均約−2.5 D |
|
眼軸長伸長 | 0.20 mm/Y | 0.31 mm/Y | 約36% | ||
④ | Santodomingo-Rubido J (2012) |
31例 | 眼鏡,30例 | 6–12歳 −0.75~−4.0 D |
|
眼軸長伸長 | 0.23 mm/Y | 0.34 mm/Y | 約32% | ||
⑤ | Cho P(2012) | 41例 | 眼鏡,37例 | 6–10歳 −0.5~−4.0 D 平均約−2.0 D |
|
眼軸長伸長 | 0.18 mm/Y | 0.32 mm/Y | 約42% | ||
⑥ | Hiraoka T(2012) 5年経過報告 |
22例 | 眼鏡,21例 | 8–12歳 −0.5~−5.0 D 平均約−2.0 D |
|
眼軸長伸長 | 0.22 mm/Y | 0.35 mm/Y | 約37% | ||
⑦ | 中村(2014) | 13例 | 眼鏡,13例 | 7–16歳 −1.0~−4.5 D |
|
眼軸長伸長 | 0.20 mm/Y | 0.34 mm/Y | 7–16歳 | 約42% |
年齢別にみた眼軸長伸長の比較(文献15より引用)。
オルソケラトロジー装用群は,単焦点眼鏡装用群と比較して有意に眼軸長の伸長が抑制されていた。特に低年齢症例で効果の大きいことがわかる。
●オルソケラトロジー装用 △単焦点眼鏡装用
近年メタ解析の報告がいくつかでてきており17,18),いずれの報告でもオルソケラトロジーには近視進行抑制効果があると結論づけられており,エビデンスのある近視進行抑制法として認められてきている。以前より行われてきた他の近視進行抑制法との比較については,Huangらによってメタ解析された報告がでてきており,低濃度アトロピン点眼と同様中等度の近視抑制効果であることが示された19)(図3)。軸外収差修正コンタクトレンズやピレンゼピンもオルソケラトロジーについで近視進行抑制効果があることがわかってきている。今後は低濃度アトロピン点眼との併用など組み合わせることによって近視進行抑制効果に相乗効果を期待したいところである。
さまざまな近視進行抑制法の比較(文献19より引用)。
まるで囲んだOK群が,アトロピン点眼の次に抑制効果の高いことを示している。下線以下はコントロール群である。
Ar-H:高濃度アトロピン点眼(1%,0.5%),Ar-M:中等度濃度アトロピン点眼(0.1%),Ar-L:低濃度アトロピン点眼(0.01%),OK:オルソケラトロジー,PDMCL:軸外収差修正コンタクトレンズ,Pir:ピレンゼピン,PBSLs:プリズム付加型二重焦点眼鏡,BSLs:二重焦点眼鏡,PDMSLs:軸外収差修正眼鏡,PALs:累進屈折眼鏡,SCLs:ソフトコンタクトレンズ,RGPCLs:酸素透過性ハードコンタクトレンズ,USVSLS:低矯正眼鏡,SVSLs/PBO:単焦点眼鏡/プラセボ
なぜ,オルソケラトロジーで近視進行抑制されるのかについては議論のあるところである。調節をかけたときに黄斑部まで焦点をあわせずに視軸上での後方へのブレ(遠視性ボケ)があるために眼軸長が後方へ伸びようとすると考える調節ラグ理論が,以前からある。遠視性ボケ像が視軸以外の部分で生じる軸外収差によっても眼軸長が後方へ伸びることがわかっており20),この理論に基づいた近視進行抑制機序である可能性が示唆されている(図4)。近年,高次収差の大きい症例ほど近視進行抑制効果の大きいことが報告されてきており21,22)(図5),収差が大きいことによって偽調節量を増加させたり,焦点深度を広げたりする効果によって,近視進行が抑制される可能性についても示唆されている。収差が大きくなれば視機能が悪くなるが,学童期の場合は偏位をしており収差が大きくても視力がでており,自覚症状がなければそのまま経過観察することが可能である。
通常眼鏡矯正時とオルソケラトロジーによる矯正時の焦点の比較。
a.眼鏡による矯正:周辺からの光の焦点が矢印⇨の部分で遠視性のボケ像が生じているため眼軸長を伸長させる刺激になる。
b.オルソケラトロジーによる矯正:周辺からの光の焦点は角膜のスティープ部分で屈折し黄斑部の光と比較して手前に焦点があう。⇨の部分で遠視性のボケ像が生じにくく,眼軸長を伸長させる刺激が少ない。
角膜コマ様収差と眼軸長伸長(文献22より引用)。
角膜のコマ様収差が大きいほど,眼軸長の伸長が抑制されていた。
オルソケラトロジーは近視矯正法であると同時にエビデンスのある近視進行抑制法として認められてきている。学童期の使用については賛否両論あるため,適切な患者選択や定期的な経過観察が必要とされている。