視覚の科学
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色視力(Color Visual Acuity)について
田中 芳樹市川 一夫
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2019 年 40 巻 2 号 p. 32-34

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はじめに

日常生活においてヒトの眼に入る光情報は白黒のみならず,様々な色を含んでいる。近年のICT(Information and Communication Technology)技術の急速な発達によって,多種多様な情報が様々な形で通知されるようになってきたことから,色情報はさらに重要な要素となってきている。しかしながら,現在の眼科検査は視力を初めとし,ほとんどが白黒ベースの検査である。臨床での色を用いた検査は,ほぼ色覚異常の検査に限られており,眼疾患の詳細な視機能を評価しているとは限らない。本稿では日常生活における視機能を,より詳細に評価するために色を用いた視機能評価方法である“色視力”について,その仕組みと現在までに行われた正常眼と緑内障眼に関する臨床的検討を紹介する。

1. 色視力とは

眼に入った光は角膜,水晶体,硝子体等の中間透光体を通って,網膜の視細胞に到達し電気信号に変換され,水平細胞,双極細胞,アマクリン細胞,神経節細胞,神経線維層から視神経を通って,脳の第一次視覚野に到達する。

視細胞は最初に光を受ける受容器の役割を担っており,明るい場所では“錐体”が働き,暗い場所では“杆体”が働く。錐体は視力や色覚に直結する細胞であり,L(Long Wavelength),M(Middle Wavelength),S(Short Wavelength)の3錐体に分類される。それぞれ錐体で最高感度を有する波長は異なっており,ある程度の感度分布を持ってそれぞれ重なる部分が存在する。このような錐体の機能により人は鮮やかな色を認識可能としているのである。この錐体の異常により呈する症状が色覚異常であるが,従来から先天色覚異常に対する検査は研究されてきており,現在ではその検査方法はほぼ確立されている。しかしながら色覚は先天異常だけでなく,眼疾患に伴う後天色覚異常も存在する。代表的なものでは,視神経疾患や白内障,緑内障,糖尿病等の様々な疾患で起こりうるが,加齢によっても水晶体の着色により色の見え方は変化する。

一般的に眼疾患に伴う後天色覚異常は,S錐体の易障害性のために生じると言われており,疾患に伴い早期に表れ,治療後もその色覚異常は残存すると言われている1)。そのため,後天色覚異常を検査することは,眼疾患の早期発見や,治療後の評価にも有用である。

また,五感の中で外界から視覚情報が占める割合は,諸説あるが,おおよそ80%ほどにもなると言われている。そして視覚情報の中には間違いなく色情報が入っている。現在眼科臨床では前述した通り,先天色覚異常に対して行われる色覚検査以外に色を用いた検査(すなわち後天色覚異常の検査)はほぼ行われていないのが現状であるため,より日常生活の見え方に即した色情報を用いた視機能評価が必要と考えられる。

色視力は無彩色の背景上に有彩色のランドルト環を視標として完全矯正下でその視力を測定する検査であり,配色する色によって錐体別の視力を測定することが可能であるため,効果的に色を配色することによって疾患眼の視機能を詳細に把握することが可能となる。

色視力の測定方法は,LCD(Liquid Crystal Display)方式と,紙媒体方式の2種類がある。LCD方式は,精密な色補正が可能なLCDと,操作用のPC(Personal Computer)を用いた検査方法で,背景とランドルト環の色の輝度を等しくして極力輝度差を小さくすることによって色のみに対する視機能を測定可能にした方法である。その一方で,紙媒体方式の検査方法は,厚紙にLCD方式のものと同様の,一様の無彩色背景上に複数の視力値の有彩色のランドルト環を印刷した方法である。色再現精度は印刷技術に左右されることからLCD方式と比較して劣るが,臨床での使用においては使い勝手の良いものである。

過去にはこのような色視力が検討されたこともあったが,臨床においての利用はなかった。本稿では測定方式の違いはあるが,正常者と緑内障眼における色視力の結果から,臨床における色視力検査の有用性について論じる。

2. 色視力の臨床的意義

1は,色視力検査に視標として利用されている色である。背景は標準の光D65の無彩色で,視標はNew Color Testという色相配列検査に用いられているChroma 6の15色を採用している。図2は代表的な4色の実際に提示される視標(ランドルト環)である。Red及びGreenはおおよそ反対色過程におけるr-g系(L,M錐体系)を,Green-Yellow及びBlue-Purpleはb-y系(S錐体系)の反応を見る色となっている。これらの色を用いて,無彩色の背景と有彩色の視標の輝度差を大きくした条件で視力を測定すると,どの色の視力も通常の白黒の視力検査とほぼ同等の視力値を示すが,輝度差を極力小さくすると全体的に視力は落ち,特にb-y系のGreen-Yellow及びBlue-Purpleの視力は極端に落ちる。これはLMS錐体の網膜上の分布によるもので,L及びM錐体は中心窩に高い密度をもって存在しているが,S錐体は中心0.35°の領域には存在しないことがわかっている2)ためである。また網膜におけるLMS錐体の比率としてもS錐体はL及びM錐体と比較して圧倒的に数が少ないため,S錐体が関与する色の特に中心での視機能は極めて弱いことが良くわかる。

図1

LCD方式の色視力検査の視標に使用されている色の色度図上での位置

図2

色視力検査の視標例(Red, Green-Yellow, Green, Blue-Purple)

これらのことから,色視力検査は錐体ごとの視機能をよく反映した検査ということが言える。特にS錐体の視機能を調べられることは,後天性の青黄色覚異常の検査をすることに他ならず,b-y系の色覚異常が疾患の早期に表れ,予後遅くまで残存するため,疾患の早期発見や経過の観察が可能となる。

疾患眼に対する色視力の報告としては緑内障に関するデータがある。Ouchiらは正常眼と前視野緑内障(Pre-Perimetric Glaucoma: PPG)及び正常眼圧緑内障(Normal Tension Glaucoma: NTG)に対して色視力検査を行ったところ,NTGではRedとBlue-Greenの色視力が正常者と比べて有意に悪い結果となり,さらにこれらの色視力はMD値と相関していることが分かった。色視力検査によく似た検査としてRabin Cone Contrast Test(RCCT)という検査ツールがあり,錐体ごとのコントラスト感度を定量化する検査であるが,Niwaら3)は,これを用いて緑内障眼の検査をしたところM錐体およびS錐体のコントラスト感度が落ちていたことを報告している。これらは,緑内障眼ではS錐体のみならずM錐体に関しても障害されていることを示唆するものであり,Ouchiらの報告と一部一致する。

緑内障では青黄色覚異常が早期に表れ赤緑色覚異常は症状が進行すると表れると言われている4)。PPGの検出には至らなかったが,緑内障眼にて色視力の低下を認めたことから,色視力検査が症状のモニタリングに有用であると考えられる。ただしOuchiらの報告の色視力検査は紙媒体であることに注意が必要である。紙媒体は,臨床で使用する場合には使い勝手の良いものであるが,印刷の品質や照明光によっても色の見え方が変わってくるため,検査環境等をある程度整える必要がある。

3. 考按・むすび

色視力に関する臨床報告はまだ少ないが,視力を用いていることから後天色覚異常を定量化する手段としてわかりやすい方法であると考えられる。中心視力はQuality Of LifeやQuality Of Visionに直結するため,緑内障眼で色視力が低下することの事実はアドヒアランスを高めるためにも有用であると考えられる。その他加齢黄斑変性や中心性漿液性網脈絡膜症といった,特に中心視力が障害されやすい疾患に関して,その症状の増悪軽快をモニタリングするのにも適していると考えられる。しかしながら今回紹介したLCD方式と紙媒体方式の色視力の測定方法は,それぞれメリット・デメリットがあるため色視力値を評価する際には気を付けなければならない。LCD方式は,色再現性の高いキャリブレーションも可能なLCDを使用しているため,測定値の再現性は高いと考えられるが,検査機器自体が汎用PCベースで専用の外付けディスプレイを用いた組み合わせの機器であるため,少々扱いづらい点がある。その一方で,紙媒体方式の色視力表は壁に貼り付けて検査可能であり,臨床上は使い勝手の良いものである。しかしLCDが光源色であるのに対し,紙媒体方式の色視力表は物体色であり,前述したとおり印刷品質や環境照明に依存していることから測定環境には注意が必要で,できる限り照明の照度や色温度を一定条件にする必要がある。

上記のように,色視力は様々な検討すべき事項があるが,今後検査方法の改善に加え,再現性や種々の疾患に対する報告が望まれる。

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© 2019 日本眼光学学会
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