視覚の科学
Online ISSN : 2188-0522
Print ISSN : 0916-8273
ISSN-L : 0916-8273
本・論文紹介
本・論文紹介
ジャーナル フリー HTML

2019 年 40 巻 4 号 p. 117

詳細

本の紹介

Wolffsohn JS, et al. IMI - Myopia Control Reports Overview and Introduction.

Invest Ophthalmol Vis Sci. 2019; 60(3): M1–M19.

近視研究の分野は,日進月歩なので最近の総説を紹介する。本総説は,根拠に基づいた最新の近視研究に関して,International myopia institute(IMI)の85名のexpertにより作成されたwhite paper(筆者もその一部を担当)のサマリーである。よくまとまっており一読の価値がある。内容の一部を紹介すると,近視の発症は7–8歳以降が多いが,発症が早いほど(7歳以前)強度近視になりやすい。pre myopia(≤+0.75 D >−0.5 D)という概念が導入され,軽度遠視は,将来的に近視になる予備軍である。近視抑制の臨床試験は3年間行うことが望ましい(中止後のフォローは+1年)。近視の進行に関係する因子として調節ラグの存在が提唱されてきたが,近視の発症には調節ラグは関係しない(近視発症の結果として調節ラグは生じる)。近視に関係する遺伝子座は200以上報告されているが,今後は環境との相互作用も含めてさらなる検討が必要,などが書かれている。近視化の機構の研究は奥が深く,筆者も30年前から興味を持ってきたが,まだ十分には解明されておらず,若い世代の頑張りに期待したい。

(不二門尚)

C. S. Y. Lam et al., Defocus Incorporated Multiple Segments (DIMS) spectacle lenses slow myopia progression: a 2-year randomised clinical trial. Br J Ophthalmol 10.1136/bjophthalmol-2018-313739 (2019).

(https://bjo.bmj.com/content/early/2019/05/29/bjophthalmol-2018-313739)

眼鏡レンズによる近視進行抑制臨床試験

昨年の「視覚の科学」第3号のこの欄で,MD(myopic defocus)を付加したBifocalソフトコンタクトレンズの近視進行抑制臨床試験に関する論文を紹介した。今回は同じ著者による眼鏡レンズを使った抑制臨床試験を紹介する。

眼鏡レンズに同時視タイプのBifocal構造を作るのは,コンタクトレンズよりはるかに難しい。なぜなら眼球回旋によって,眼の瞳孔内に作用するレンズ上のMD成分が変動してしまうからである。DIMSレンズはMDセグメントを小さくし,レンズ上に均等分布させることで,見事にその課題を解決したのである。試験結果の詳細は読んで確認していただきたいが,簡単にまとめると,DIMSグループはSVグループより,近視度数の進行が52%,眼軸長伸長が62%遅い結果が得られたとのことである。

(祁  華)

Stewart, E.E.M. & Schütz, A.C. (2018) Optimal trans-saccadic integration relies on visual working memory. Vision Research, 153, 70–81

跳躍眼球運動の前後で生じる網膜像の連続性の維持に視覚の作業記憶がどのように寄与しているのかを心理物理学実験により明らかにした実験心理学の論文である。

跳躍眼球運動の前後では,網膜像の類似性の比較などが行われるために,一次的な記憶保持が必要である。これらの記憶に対して追加の記憶作業を行わせると眼球運動前後での統合が阻害されたことから,跳躍眼球運動の前後での網膜像の統合に視覚の作業記憶が大きく寄与していることが示された。

網膜の不均一性の解消に起因する跳躍眼球運動は視野全体の理解と安定において極めて必要な機能であり,中枢からの情報と初期視覚過程による協調した機序であり,視覚の作業記憶が大きな寄与をしていることを示した論文である。

(吉澤達也)

BMC Ophthalmology (2016) 1 6:37

DOI: 10.1186/s12886-016-0213-5

Hyo Seok Lee, Sang Woo Park and Hwan Heo

Acute acquired comitant esotropia related to excessive Smartphone use

スマートフォンによる急性内斜視は増加傾向にあるが,スマートフォンの使用を控えることにより改善できる。

スマートフォンの使用によって,調節機能に異常が生じる症例が増加し,国内では「スマホ老眼」と騒がれている中で,スマホによる急性内斜視の症例が多く出現することが話題に上がってきた。この論文によれば,スマートフォンの使用を中止すれば回復すると結論されているが,現状ではスマートフォンの使用を止めることはほとんど不可能に近いと思われる。私の経験では,内斜視を訴える症例よりも外斜位で複視を訴える例の方が圧倒的に多い。いずれにしてもスマートフォンを異常に近い距離で見続けている症例に多い。内斜視になるか,外斜視になるかはその症例の本来の眼位と輻湊努力の差によるものと思われる。

スマートフォンを使用するには正しく矯正された眼鏡を用いた上で,適切な距離で使用することが大切である。

(梶田雅義)

 
© 2019 日本眼光学学会
feedback
Top