人口学研究
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論文
人口高齢化時代の子供と老人
河野 稠果
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1990 年 13 巻 p. 5-13

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抄録

本論文は,人口高齢化の影響について,特に子供と老人という従属人口の二つのグループを取り上げ,彼等の相対的経済的地位,彼等の生活の質が高齢化社会の到来によってどのように変化して行くのかを考察することを目的とする。出生率が低下し,中高年の死亡率が改善されれば,人口高齢化が起こり,年少人口は相対的においても実数においても増加する。そうなれば年少人口が社会経済的に有利であり,逆に老年人口は不利なことばかりだろうか。これに対し,プレストンは事実は全く逆だと主張する。人口高齢化の状況において老人の生活はむしろ良くなっており,むしろ割を食うのは年少人口であると論ずる。本報告は,年少人口が相対的に小さいことがその構成員に必ずしも有利な条件を与えないこと,逆に数の大きい老年人口はその数の大いさのためにむしろ良い効果を生ずるという"プレストン効果"が,日本の場合に当てはまるかどうかを検証しようとした。ここで2種類のデータを用いた。一つは「厚生行政基礎調査」による支出データであり,他は総務庁の「全国消費実態調査」による所得データである。前者は1975, 80, 85年の3年次に対するものであり,後者は1979年と84年の2年次のものである。そこで,個票の段階にまで遡り, equivalence scaleという世帯の規模による修正係数で一々を割り,インフレーターを掛けて時系列比較を可能にし,ついで世帯の殻をとって,世帯員個人のデータを年齢別に集計したものである。以上の分析の結論は,日本においてもプレストン効果が意外に見られるのではないかという点である。過去10年間をとってもわが国の生活水準は老若を問わず向上した。その全般的向上のために,プレストン効果は必ずしも格別に明らかではないが,少なくともこれまで高齢化によって老人の生活は悪くなっていないし,むしろ子供と比較して恵まれた状況になりつつあることは紛れもない事実だと思われる。人口高齢化の過程で,弱者は高齢者だけだというのは思い込みである。社会的弱者は従属人口の二つのカテゴリーである老人と子供だとして,複眼的に人口現象を眺める必要がある。

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© 1990 日本人口学会
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