人口学研究
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若年有配偶男子の世帯形成動向 : 過去と将来
廣嶋 清志
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1993 年 16 巻 p. 1-16

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抄録

世帯形成の中心をなす若年(20-39歳)の有配偶男子において世帯を形成する傾向(世帯主率)が1975-85年において低下したため,このような傾向が一時的なものか,あるいは今後も持続するものかを明らかにするため,世帯主率に重要な影響を与える親との同居をとりいれた要因によって構成される解析モデルを考案した。このモデルに必要な同居率などの変数を国勢調査の個人を単位とした世帯集計の結果から誘導する方法を考案し,その変数を投入して,1975〜1990年における世帯主率の動向を分析し,またこの結果に基づき, 2000年までの世帯主率の将来推計を行った。若年有配偶男子の世帯主率(70数%〜80数%)は1975年から1985年までの10年間に各年齢階級毎に2.1〜5.4%の低下を示したが, 1985年から1990年にかけては,わずかに低下した35-39歳を除き,逆にすべて1.4〜4.6%上昇に転じた。したがって, 1970〜1990年のその傾向は上昇・低下・上昇と複雑な様相を示したが,世帯主率(h)を親との同居率(c)と親と同居する者の世帯主率(h_c)と非同居の者の世帯主率(h_n)とに分解(h=ch_c+(1-c)h_n)すると, 1975〜1985年の世帯主率(h)の低下は,親との同居率(c)の上昇と親と同居するものの世帯主率(h_c)の低下の両方の要因により生じたものであるが, 1985〜1990年の世帯主率の上昇はもっぱら親との同居率(c)が低下に転じたため生じたものである。さらに,世帯主率の背後にあるこの1970〜1990年における同居率(c)の低下・上昇・低下の動きについては,同居率を同居可能率(c_a,親と同居できる子世代人口の割合)と同居実現率(c_r,親と同居できる子世代人口のうち実際に同居したものの割合)とに分解する(c=c_ac_r)と,前者(c_a)は単調に上昇する一方,後者(c_r)は単調に減少していること,したがって,同居率(c)の一見複雑な動きはこの2つの逆方向の傾向が合成された結果であることが分かった。いいかえると,同居可能率(c_a)は1985年までは過去の人口転換にともなう出生率低下(きょうだい数の減少)によって急速に上昇し,その結果,同居率(c)は上昇したが, 1985〜1990年においては20歳代を中心に同居可能率(c_a)が上限の90%にほぼ達したため,同居実現率(c_r)のこの間の一貫した低下が直接に同居率(c)の低下に表れたものであるといえる。したがって, 1985-90年の世帯主率(h)の上昇は一時的なものでなく同居実現率の一貫した低下に裏付けられたものであり,今後ますます上昇を続けるものと見通すことができる。1990年以後は,同居率実現率(c_r)の1990年までの変化が当分,継続するものと仮定することにより,将来推計値が得られ,分解された2つの世帯主率(h_c, h_n)も同様にして,将来推計値が得られ,これらによって, 1995年, 2000年における世帯主率を推計した。この結果によれば, 2000年には20, 30歳代の世帯主率は欧米型に近い高率で平坦な形となる。

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© 1993 日本人口学会
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