本論文は, 1985年度に中国吉林省にて実施された『農村人口出産力と生活水準に関する調査』のデータを用い, 1971〜85年の期間における同省農村部の出生力水準と年齢・パリティ構造,および第二子・第三子出生の決定要因を分析したものである。吉林省農村部の出生力は, 1970年代〜80年代前半を通じて急激な低下をみたが, 1979年の「一人っ子政策」開始以前の低下は,主に30歳以上の既婚女性の出生力抑制によるものであった一方,同政策開始以降の低下は,主に20歳代の既婚女性による第一子出産後の出生力抑制のためにもたらされたと考えられる。生命表を用いた分析の結果,吉林省農村部の女性の殆どが結婚後比較的短期間に第一子を出産するというパターンが, 1970年代〜80年代前半を通じて共通していたのに対し,第二子および第三子出産パターンには,「一人っ子政策」開始以前と以後とで明らかな違いが見られた。1971〜79年に第一子を出産した女性の大部分がその後第二子を出産したのとは対象的に, 1980〜85年に第一子を出産した女性の中では,ごく一部の者しか第二子を出産していない。また第三子出産に関しても同様のパターンが見られるが,第二子出産と比較して,第三子出産の水準はかなり低くなっている。従ってこれらの分析結果から, 1980年以降の吉林省農村部において,「一人っ子政策」が第二子・第三子出生を抑制する強い影響力を持っていたことが示唆される。更に,ハザード・モデルを用いた分析の結果, (1)男児を少なくとも一人持つことと先に出生した子供の死亡とは,共に第二子・第三子出産に正に影響を与え,またこの関係は1971〜79年および1980〜85年の両方の期間に当てはまる。(2)出産年次と第二子・第三子出産との間には「逆J形」の関係が見られる。これは, 1971〜79年および1980〜85年の両期間において,第二子・第三子出産の確率は初め上昇するが,その後低下することを意味する。(3)母親の職業が農業であることは第二子出産に正の影響を持ち,また母親の教育程度は第三子出産確率を低下させ,特に1980〜85年の期間において,文盲の母親は中等教育を受けている母親に比べて,第三子出産の確率が高いことが見出された。